中国語教室 ハンズアカデミー 東京・渋谷・神田|2008年5月 公開中国映画情報

2008年5月 公開中国映画情報

 

『軍鶏』

人間が犬になるのか、犬が人間になるのか

香港のソイ・チェン(鄭保瑞)監督、初めて会ったときの印象は「シャイでかわいい人」でしたが、2004年に東京国際映画祭で上映された『愛・作戦(原題)』はこれでもか、という執念の作品でした。

続く『ドッグ・バイト・ドッグ』では執着心とヴァイオレンスに磨きがかかり、度肝を抜かれました。監督自身が好きで、得意とするのはホ ラーとのこと。執念ヴァイオレントホラーという新たなジャンルを確立か?!でも子供が生まれるシーンがあったりと、人間らしい側面も描かれている。犬のよ うに生きてきた人間が、人間らしさに目覚め人間になっていく一方で、人間らしさを抹殺され、犬のようになっていく人間。これは新作『軍鶏Shamo』にも共通する。軍鶏になるしか生きる場所を見つけられなくなったショーン・ユー(余文楽)演じる主人公、亮。彼をそこまで追い込んだのは彼の人間らしさゆえ。

『ラブ・イン・ザ・シティ(映画祭上映のみ)』で見せたような(映画の評価はさておき)、純粋なおまわりさん役にときめいたりします が、ショーンにとって極限に挑戦させてくれる監督・作品にはこの上なくやり甲斐を感じたのでしょう。本人も「最も満足できた、今まででベストの作品」と語 り、初めて映画祭でのノミネートも経験。怪我で降板したダニエル・ウーに代わり国際的な作品『I come with the rain(トラン・アン・ユアン監督)』の出演も果たし、さらなる飛躍が期待されます。

大人のあなたにもお楽しみポイントはあります。演技派フランシス・ンが怪優振りをいかんなく発揮。。。一番マンガっぽい役で楽しませてくれます。そしてブルース・リャン、『カンフー・ハッスル』ではハゲに惑わされ誰か分からなかったあなたも、この作品では『Gメン75』が思い出されるはずです。

ソイ・チェン、新作はジョニー・トー製作だそうで、きっと一皮むけることでしょう。
初来日の時には電車の網棚に置いたパソコンを盗まれてしまったという監督。日本は安全な国だと思って寝てしまったそうな。そのパソコンには書きかけの脚本があったらしい。。。

 

『靖国』

「Yasukuniで撮りたいんだけど。」

いつもなら特に反応はしない海外の映画監督からのリクエスト。ドキュメンタリー映画の中で、旧日本軍軍人にインタビューをする際の背景に使いたい。また、彼に境内や遊就館を案内して欲しいとのこと。

内容が内容だけに、今回ばかりは「靖国神社は各人に意味のある神社なので、取材を受ける方が靖国神社で撮影をすることをどう思うか、まず確認した方がいい」と伝えました。

最近は日本が海外のメディアでどう取り上げられているかを逆輸入する番組もありますが、実際どんなことがどう取材され、伝えられているかを知る機会はほとんどありません。

『靖国 YASUKUNI』を巡る一連の騒動(何と呼ぶべきか実は言葉が見つかりません)で、ドキュメンタリーとは何か?という議論が 広まった機があるので、製作の視点から少し触れてみます。私は海外メディア(英語で対応の出来る様々な国籍)の取材や撮影のリサーチ、手配、撮影交渉やイ ンタビューといったことを行う製作の仕事もしています。構成を練れば機材をかついで走り、通訳もする私のような日本人「仲介者」がいる時点で海外メディア の撮るものに色が付いていると言えばその通りです。例えば以前の撮影で痛い思いをした、迷惑を掛けた取材先には当たらないかもしれません。

近頃は減りましたが、以前は来日前から監督の頭に「撮りたい日本」の映像が出来上がっていて、それを映像化すべく事実と違ったことを要求され、衝突するこ ともよくありました。監督がこうだと思う日本があるなら、自国のスタジオで「日本」を演出して撮れば?と言いたくなる場面もありました。

『ロスト・イン・トランスレーション』効果や世界的な日本ブームが起きたこともあり、撮影する内容も多様化が進みました。アキバ関連、様々なおたく、性産業を背景として面白おかしく作る番組もあれば、精神性や宗教の不在と日本の自殺や引きこもりの関連の仮説を立て生真面目に撮る人もいます。

『靖国 YASUKUNI』に助成金を出した芸術文化振興基金の助成金交付基本方針に「政治的、宗教的宣伝意図を有 するものは除く」とあり、この作品に関して中立性ということが叫ばれました。中立でないと助成金が出ないという解釈なのであれば、そもそもドキュメンタ リー映画で助成金を受けられる作品などひとつもないのでしょう。強い思いがない事柄に関してドキュメンタリーを撮る、そんな物好きな人間はいないでしょ う。李纓(リ・イン)監督にしても、10年余の月日をかけたのです。

靖国神社に撮影に行くと自称右翼、あるいは右翼的活動をしている人がおり、私の経験では海外の監督は必ず彼らを撮りたがります。まず絵的に分かりやすい、 そして話し好き。字幕を付けたり声をかぶせる海外の映像ではビジュアルのインパクトが優先されることが多々あり、そして海外メディアに注目され、話しを聞 いてもらえる側としては気分を良くして饒舌になります。

海外ニュース番組の天皇制、君が代問題に関する撮影の際には「右翼の人を探してきて」と言われたことがあります。「中立な番組を作るために左右両方の意見 を聞きたい」。一見正論なようで、果たしてそれが中立なのだろうか。何人の人に聞けば中立なのか。皇居に来た地方からの観光客、卒業式で君が代を歌うこと を拒否して罰則を受けた公立学校教師、靖国神社にいる自称右翼、街宣車に乗っているが右翼ではないという人、大学教授、評論家、これらの人に3分、あるい は1時間話しを聞いたものを編集して繋げば中立な作品が出来るのだろうか。

憲法9条に関して取材をした時も似たことが起きました。今までの取材では改憲派が多かったから、別の意見も取り入れてバランスを取ろうという監督。広島平 和記念公園で話しを聞いてみた。10代の男女:「憲法9条。。。聞いたことあるような。。。よく分かりません」。今のはボツですか?次の答えも「よく分か らないけど。。。平和なのが一番です」。これがすべてではありませんが、ひとつの事実であることは間違いないのです。

海外メディアとして取材をしていると日本を客観的に見ていながら、逆に主観が強くなるのが困りものです。日本はどうあるべきか、世界の中でどんな役割を果たすべきか、そんな熱い疑問を持って生きるウザイ奴にどんどんなっていきます。

でも私たちひとりひとりが日本で、日本を作り上げている歩くドキュメンタリー映画なのです。そんな当事者意識を持つきっかけになれば。。。そんな主観と共に私は仕事をしているのかもしれません。

次の依頼が来ました、ラグジュアリーな日本の旅。「北海道の海の幸と九州の温泉はいかがでしょうか」。

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松下由美・・・・東南アジアとヨーロッパに長く滞在。
映画祭・映画イベントの司会・英語通訳や映画撮影の製作を担当している。
アート、インディペンデント系、アジア作品を多く担当し、中国語圏作品好きも高じて中国へ短期留学経験あり。
Sintok シンガポール映画祭実行委員。
URL:http://www.sintok.org/
MAIL:chinesefilms{at}mail.goo.ne.jp

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