中国語教室 ハンズアカデミー 東京・渋谷・神田|2008年6月 公開中国映画情報

2008年6月 公開中国映画情報

 

『1978年、冬。』

青春の光と影

私には1978年の中国の若者の現実を知る由もありません。
それでいてこの作品がもたらすのは胸が締め付けられるような気持ち。私の勝手なジャンル分けで「痛い映画」に入る作品です(ダルデンヌ兄弟、ミヒャエル・ハネケ、スザンヌ・ベア作品などもここに入っています)。ただそのジャンルでもこの作品が異色なのは、懐かしい気持ちになること。

昨年の東京国際映画祭コンペティション部門の試写で見たときから私の中ではグランプリ作品でした(結果は次点に当たる審査委員特別賞、グランプリは『迷子の警察音楽隊』)。公開が決まり良かった!と思っていたら日本の会社も製作に加わっているとのこと。外国の資本が入ると利権が絡んで変なところに行ってしまう作品が多い中で、リー・チーシアン(李継賢)監督と脚本家リー・ウェイ(李薇)夫妻が10数年暖めてきた愛おしいものの結晶となっています。

農村出身の父が軍人だったため、小さい頃を東北、河南、湖北地方などで過ごし、父は寡黙で、母は声が大きくかんしゃく持ちで口が悪い。兄は荒野を駆け回る 野うさぎのように手が付けられなかったと語る監督。映画の兄弟のように洗面器のような器で食事をしても、母に頭をなぐられても絵を描くことが好きだった監 督の感性は着実に養われました。画家になるべく美大を目指したが、それがかなわず北京電影学院美術学科に入学した監督。画面から瑞々しさが伝わるのはス タッフの多くが北京電影学院の同級生(1989年卒業)であることにもよるのでしょう。ちなみに次回紹介する『天安門、恋人たち』のロウ・イエ監督も同期です。

閉ざされた地方で生きる人間の運命を描きたかった」と言う監督。仕事をボイコットして、彼の聖域である廃墟の建物で自分の世界に浸る兄。改造ラジオで外の 世界に憧れる。お弁当を暖めるささやかな俺流の贅沢に、町の食堂では餃子を持参したナイフとフォークで食べる。彼のプチ奇行振りは『孔雀 我が家の風景』のヒロインに通じるものを感じた。『孔雀』も設定は1977年の田舎町。文化大革命の終わりと近代化・対外開放幕開けの時代でした。

無軌道な暴力などに走る反抗もあれば、内向きに自分や人生を模索する姿。こんな青春の正しき姿に自分のことをだぶらせ、どこにいても青春時代の痛みは同じ なんだ。。。そう思わせる一方、最近の日本の若者が引き起こす事件を見ると、健全な無軌道や内なる反抗の過程を経られていないのでは、と可哀想になる。こ の作品の若者のような孤独や絶望を経験すれば、嫌でも打たれ強い大人になっていくだろうから。

新体操出身でモデルのような体型でありながら、憂いのある雰囲気が役にぴったりなヒロイン、シェン・チアニー以外のキャストは素人である。主役のファントウを演じたのは2000余名の中から選ばれた地元の小学生チャン・トンファン。 みごとな存在感ながら、どこか情けない感じが秀逸。スッポンポンにまでなってくれた熱演に彼の今後の人生が恐ろしくも楽しみでもある。 子供の世界をここまで表現できるとは、監督、やはり男性はいつまでも少年の心を持ち続けているからでしょうか。

脚本家、リー・ウェイの印象的な言葉で閉めたいと思います「人生はなぜといわれても答えがでないものだと思います。20年探し続けても 最愛の人にめぐりあえない人もいれば、わずか数秒で最愛の人にめぐり合ってしまう人もいて、それはまさに運だと思います。これこそ東洋の哲学であり、仏教 の無常観とも関係するのでしょうか。ですが、そういう機会が巡ってきたなら、自分の運命を受け入れて、自分のすべきことを淡々とすること、自分の夢を持ち 続けることが大事だと思います。13年間かけてこの作品を撮ること、それを3ヶ月で撮ってしまうと言うこと、それはあまり重要ではないと思います。」

2006年の東京国際映画祭コンペティション部門に選ばれた『十三の桐』も痛い青春映画でした。中国の高校ながら、日本人は親近感を覚えるはず。テーマも今日的であり、是非公開して欲しいものです。

 

『ミラクル7号』

みごとな子役に注目!

カンフー・マスター、喜劇王..チャウ・シンチー監督・製作・脚本。 今月の2本は全く接点がないようですが、2本に共通するのが子役の素晴らしさ。 全く違うキャラながら、共にいじめられっ子のスーパー子役を要チェック! チャン・トンファンが情けないちゃんならヴィッキーは健気なめげないちゃん。それもそのはず、実は女の子。そう、女は強し。1万人近くをオーディションした中で見出されたのは折江省杭州出身で当時8歳だったシュー・チャオ。何千人もの男の子に会いながら役にぴったりくる子はおらず、女の子が男の子を演じることになったというのが何とも今日的。

かわいい。子役だけでなくナナちゃんことミラクル7号もかわいい。この手のCGキャラクターには全くなびかない私ですが、ナナちゃんのふさふさ具合やぷにょぷにょ具合には驚きました。外国から毛皮の専門家を招いて開発されたナナちゃんのモデルはシンチーの犬だそうですが、チンチーは自称『ドラえもん』のスーパーファンであり、かなりの影響を受けているとのこと。

小学校のクラスメートのありえないキャラたちも強烈。チビ社長のように振る舞ういじめっ子のこまっしゃくれっ振り。ほかあまりに個性的な「大物」脇役。マンガチックでありながら愛すべきものがある。自身の作品のパロディもあるが、この作品を撮ったチャウ・シンチーの真意はどこに?

オリンピックで沸く中国の底辺にいるのは建設業の日雇いで家族を支える出稼ぎ「民工」。貧困から抜け出す唯一の道は子供を大学に行かせること。中国の教育熱や、分不相応であっても面子を気にする風潮を身体を張って演じてみせたのかもしれません。シンチー映画の常連、ラム・ジーチョン演じる「教養もマナーも身につけてないけど、心は温かくて最後には正義のために立ち上がる」工事現場のボスの描写がファッションといいまさに中国的。肉体労働者未経験のラム曰く「中国にいるときに、この役に似ているひとを探しては観察していたんだ。」

シュー・チャオはシンチーの製作会社スター・オーバーシーズと8年契約を結んだ上にシンチーの 養子となり名実共に親子となった。今でも杭州で実の両親と暮らしながら、将来はコメディーを監督したいと言うチャオちゃんは最高の環境を得たわけです。行 く行くこの関係がこじれないといいな、などと部外者は懸念してしまいますが、下記サイトのインタビューで仲むつまじい様子を見せる二人。字幕付きでチャオちゃんと、彼女に分かるようにと北京語を話すシンチーの声が聞けます。
http://www.walkerplus.com/bb/

日本では本作は広東語版での上映。やはりチャウ・シンチーの軽妙さは広東語の響きでないとねぇ。広東語自体が分かったらきっと抱腹絶倒なんだろうなぁと思いつつ、翻訳家さんたちの知恵と労をねぎらいつつ。。。。 チャウ・シンチーは2006年4月にも特集上映が組まれましたが、6月28日から開催される「香港レジェンド・シネマ・フェスティバル」ではチャウ・シンチーの作品3本も上映されます。「チャウ・シンチーの熱血弁護士」(1992年)にいたっては監督ジョ二ー・トーという豪華な顔合わせです。

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松下由美・・・・東南アジアとヨーロッパに長く滞在。
映画祭・映画イベントの司会・英語通訳や映画撮影の製作を担当している。
アート、インディペンデント系、アジア作品を多く担当し、中国語圏作品好きも高じて中国へ短期留学経験あり。
Sintok シンガポール映画祭実行委員。
URL:http://www.sintok.org/
MAIL:chinesefilms{at}mail.goo.ne.jp

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