ケリー・チャン出演作の公開は『インファナル・アフェアIII 終極無間』(05年)以来、主演作となると公開はジョニー・トー監督の『ブレイキング・ニュース』(04年)と久しぶりな感じがします。
クールで印象的な目、スラリと伸びた肢体、『世界の涯てに』(96年)のケリーの可憐な印象と、その後テレビで見たショッピング大好き!なギャルっぽい素 顔のギャップに苦しみましたが、そんなケリーも今ではNPOで社会貢献活動にも取り組んでいます。そして一途な愛を成就して、昨年10月に16年来の交際 相手の実業家と結婚。36歳のケリー、今年の8月に出産予定ですが、香港では「ほぼ男児に間違いない」という大きなお世話噂で盛り上がっているようです。 本作で共演したドニー・イェンからは、男の子がだったらカンフーを教えてあげると言われたそうです。これはラッキー!その子に生まれ変わればドニー先生に しごかれたケリー似カンフー・スターになるという私のふたつの来世の夢が同時に叶う(かもしれない)!う?ん、死なずして生まれ変わることはできぬもの か。。。。
そんなバカバカしくも乙女な気分に浸れるのは、本作がとてもロマンチックだからです。最近の中華圏映画は戦国ものが続いた感があり、本作も冒頭では「また か」と思ってしまったのですが、まずは衣装に目を惹かれました。時代考証にはこだわっていなさそうなセンスの、どこかインドシナ風でもある甲冑。お団子頭 もかわいい。衣装を担当したドラ・ンは、近年では『ウィンター・ソング』(06)や『ミラクル7号』(08)を手掛けています。時代劇は初めてのようです が、刺客の衣装も忍者風でかっこいい。
主演の三人が結構年を取っているって?いいのです、広い世代が親近感を持てるじゃあないですか。『花の生涯 ~梅蘭芳~』では、あそこまで控えめな主役を演じられるのも才能だとか、どう解釈していいものか困るコメントもされているレオン・ライですが、本作では段 蘭泉というまさに(一部の女性から見て)理想の男性を演じています。一人で森の奥で生きる術を持っている、モデルはターザンでしょうか。そしてケリー演じ る燕国の王女、燕飛児が蘭泉と「飛ぶ」シーンは、二人のデュエット「随夢而飛(Fly with the dream)」とあいまって盛り上がり、『タイタニック』のあの有名なシーンよりずっとうっとりしてしまいます。ところがある男性のコメントでは、この一 連の場面がイラつくとか。ケリーが十代の小娘のようだし、だれるから早くアクションに戻れと。それはね、男に囲まれて、城と戦場しか知らずに育った飛児が 初めて女に目覚めたのよ!分かってないなぁ。。。つまり、この作品は男性と女性の(一概に区別出来ませんが)共感どころをよく把握しているんですね。
アクションを担うのはもちろんドニー。出身は広東省ですが、11歳から移住したアメリカでグレはじめ、このままでは地元ギャングに染まることを恐れた武術 家の母親が彼を北京に送り、体育大学でみっちり武術を仕込まれたとのこと。私が上海へ短期留学をした際に通った武術クラスにある日本人がいました。彼は日 本で就職をしたものの、武術への思いを立ちきれず、北京体育大学で学んだそうです。当時は上海で貿易の仕事をし、上海女性とも結婚をした彼ですが、武術も 北京語もピカ一の彼を私はドニー泉と呼んでいました。体育大学での2年間は密度の濃いものだったそうで、言語と武術を一度に学びたいあなた!これは要考慮 の留学選択だと思います。
さてドニー演じる将軍雪虎、孤児である引け目からか、その秘めたる愛を直接表現することはなく、恋敵の腕試しや犠牲という形でしか伝えられないのです。こ れをMr.ナルシスト、ドニーが己の美学を昇華しきるかのように、髪を振り乱して壮絶に演じ上げる後半は彼の独壇場。ここまでやってくれるとあっぱれで す。『SPL/狼よ静かに死ね』(05年)の刑事とは思えないファッションや、いつまでも張りのあるお肌とかアクション以外の面でも楽しませてくれるド ニーですが、<書皮>に<葉門>といった最新作もヒットし、授賞もしています。武術家/俳優になるきっかけがブルース・リーだというドニー、<葉門>は広 東省を中心に伝承されてきた永春拳の、そしてブルース・リーの師匠である葉門を描いた作品ということで、是非公開を期待したいところです。
王位を狙う王の甥、胡覇を演じているのは『天安門、恋人たち』(2008年7月号で掲載)が印象深いグオ・シャオドン、初の悪役ではないでしょうか。憧れ の家庭教師の大学生のような雰囲気がまだ邪魔をしていますが、最近はツイ・ハークなど香港監督の作品にも出演、活躍の場を広げています。来月紹介する 『ウォーロード 男たちの誓い』にも特別出演、ここでは悲劇の男の哀愁を演じています。
監督は『少林サッカー』、『HERO』、『LOVERS』に日本の『どろろ』の武術(アクション)監督でも知られるチン・シウトン(程小東)。チャン・ イーモウと共に北京オリンピック開会式でのワイヤー・アクションも手掛けました。最新武術監督作は『ウォーロード 男たちの誓い』。
ケリーは世界経済フォーラムの2009年「ヤング・グローバル・リーダーズ(若き世界指導者)」世界71カ国の230人の一人に選出されました。香港から 選ばれた4人のうち、ケリー以外はビジネス界からですが、彼女の社会責任を果たす行動が評価されたのでしょう(日本から選ばれたのは橋下大阪府知事、ミス ターチルドレンの桜井和寿、経済評論家の勝間和代ほか7名、ほかにはタイガー・ウッズ、Youtube創設者の一人チャド・ハーレー等)。ケリーは 2002年に「陳慧琳児童助学基金」を設立、大陸の農村部に28の小学校を建設、香港でも貧困家庭の子供に教育の機会を提供しています。ケリー自身、親日 家の父親の勧めで高校は神戸のカナディアン・アカデミーで学び、大学はNYに留学しており、教育や語学の大切さを実感しているのでしょう。セレブリティー の社会貢献責任の自覚があるからこそケリーは外見/内面ともにロールモデル(手本となる人物)なのではないでしょうか。教育の機会を子供に与えるためには 少額の募金からでも始められる、そんなことをケリーは私たちに気付かせてくれます。


















PartIを見てからしばらく経っているという方にも冒頭復習を用意している、ビューアー・フレンドリーなPartIIです。とは言え私もPartIを見 た際には登場人物の名前表記もなく、あれよあれよと展開した感がありましたが、先だってPartIを見直したらぐいぐい引き込まれました。
涼しい顔をして飄々と孔明を演じる金城君がかなり板についてきて、何だか仙人のようだ。いい人になり過ぎても面白くないんじゃないか。アブナい役も演じて 欲しいし、大物との大作だけでない小品にも出て欲しい。でも彼のルックスが、どんどん浮世離れしていく気がするのは私だけでしょうか。
PartIIでは女性も主役という扱いになっていますが、現代風に言えば平和調停人役を果たそうとした小喬。make peace, not war「戦争を起こすのではなく、平和を作ろう」転じてmake love, not war「戦争を起こすのではなく、愛を交わそう」と言ったりしますが、彼女はさしずめmake tea, not war。一杯の茶は気分転換や癒しをもたらす。だが命取りとなることもある。妻も策士である。
思い起こせばトニー・レオンの孔明役辞退後にチョウ・ユンファの周瑜役降板がありました。元々のキャスティングで作られていたら違う雰囲気の作品になった に違いありませんが、監督も理想通りの「三国志」の人物像が出来上がったと満足そうです。監督自身の「三国志」のお気に入りの人物は周瑜と趙雲だそうで、 趙雲には自分に近いところを感じるそうです。なるほど、だからPartIでは趙雲が主役なんですね? 勝手に私はそう思っていますが、PartIIでも出番は少ないながら決めてくれます。フー・ジュンの株も上がり、これから趙雲を演じる役者はやりづらくな るのではないでしょうか。
最後に、ではPartIIの主役はだれなのか。私にとってはヴィッキー・チャオとトン・ダーウェイです。PartIでは資料に名前があるのに登場しなかっ たトンですが、隣のお兄ちゃんのような親しみやすさが役にぴったりです。しかしながら名を残すこともない兵士、孫淑材も『レッドクリフ』オリジナル・キャ ラクター。二人の一連のシーンを不要だと切り捨てた海外の批評も読みましたが、尚香の人物像がはっきりと描かれ、ヴィッキーが消化しているのがよく分かり ます。あまりに優れた武将振りですが、孔明曰く「北に曹操、南に孫権、更に内にあっては孫夫人の脅威があり…」だそうで、尚香とその侍女たちは武装してお り、新婚初夜にそれを見た劉備が逃げ出したとか。周瑜が仕込んだ政略結婚で、30も年上の劉備に嫁いだとされる尚香。夫婦仲はよく、劉備が戦死したという 誤報に絶望して長江へ身を投げたと伝えられているそうですが、PartIでは政略結婚で道具に使われることに反発した尚香。ウー監督、こういった現代的な 解釈も心得ています。尚香がこの先どう生きるのか。監督、PartIIIは尚香主役で撮ってはいかがでしょうか。
「彼の作品は、本当の中国を描いていない」とは北京人の友人の弁。この映画監督の友人曰く、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督は、「海外の映画祭を念頭に置 いたような中国を撮っている。例えば『長江哀歌』で労働者が麺を食べるシーン。彼らは何度もの取り直しでげんなりして麺を食べているけど、本当ならかき込 んで食べるはずだ」。面白い指摘かもしれない。私はそこには全く目がいかなかったからだ。
日本で彼の作品が必ず上映や公開がされているのは北野武監督の所属事務所、オフィス北野が出資していることも大きいと思いますが、やはりどこかヴェネチアやカンヌといった映画祭で評判のいい監督といったヨーロッパ経由の評判が大きいように思います。
そして新作『四川のうた』、いつもの叙情的な映像はさらに美しく、でも熱を帯びているのです。以前は軍事工場であるがゆえに「420工場」と番号で呼ばれ た一見無機質な工場が、長年人が住んでいた家のような温かみを持っている。工場フェチな映像作家は多いし、工場というのは絵になるロケーションですが、 ジャ監督自身も長年工場の映画を撮りたいと思っていたようです。
映画には、山口百恵が中国でも大人気だったという懐かしい話を思い出させる逸話も。日本のテレビドラマ「赤いシリーズ」が、中国の個人恋愛の価値観に多い に影響を与えたというのは興味深い。「中国で80年代を生きてきた人にとっては、山口百恵さんは共通言語です」と語る監督。日本では70年代に放送された 山口百恵主演の「赤いシリーズ」は若者の恋愛を描きながらも家族のドラマであり、時にそれがドロドロだったりしても良心や品性のあるところが中国には新鮮 で、そして受け入れられた理由かも知れません。
実際の工員と、俳優が混じって自分や「誰か」を演じ、一本の映画になっているというのは実にスリリングかつ、監督にも俳優にとっても大いなる挑戦だったことでしょう。
それとは対照的に華のある中年女性の風格を漂わせているのがジョアン・チェン。華の盛りを過ぎても粗大ゴミ扱いはイヤという女性を演じている。彼女のプラ イドが彼女を不幸にしているのか、または彼女を支えているのか、力強く生きさせている。他人を演じながら、設定がジョアン・チェン似という彼女以外演じら れない役を、ほとんどワンテイクだけで撮ったとのこと。「彼女がデビューした18歳の時の映像を流して、50歳くらいの今の彼女と同時にその映像を流そう という提案におおらかに応えてくれた。非常に勇気のいることだなと思いました」という監督。確かに女優としては時の流れをさらすことになりますが、それだ からこそ血と肉が通った安堵感と美しさが醸し出されているのではないでしょうか。
そしてジャ監督のミューズ、チャオ・タオは工員の子供世代として、いかにも現代っ子という感じで登場しますが、「労働者の次世代」たちには出演のオファー をしたものの、ことごとく断られてしまったとのこと。この次世代たちが工場と言う大きな家、守られた空間のない中でどう生きていくのか。親との価値観には どういった相違があるのか。次回はそれを追った作品も見たいと思います。
そして『カンフーシェフ』、主役はサモ・ハンとヴァネス・ウー。2月号で紹介した『三国志』や『ドラゴンスクワッド』(05)でも共演している二人ですが、本作ではがっちりと師弟関係のタッグを組んでいます。
サモ・ハンの長男、ティミー・ハン・ティン・ミンが、根は優しいのに風見鶏な行動を取ってしまうレストラン経営者の鞄持ちを演じています。テレビ司会者と して知られる彼は、風貌もキャラも父親とは似ていません。アクション映画にも出ているということですが、あまりにも偉大なアクション・スターの父親を持つ ということではジャッキー・チェンの息子、ジェイシー同様アクションの道には行かない方が賢明なのかもしれません。
見所はやはりサモ・ハンの料理とカンフーのみごとな融合ですが、兄役のブルース・リャンとの対決も楽しめます。若干16歳にして武術指導者になり、香港の 空手大会で優勝。74年の主演作『必殺ドラゴン 鉄の爪』でデビュー後は数多くの映画に出演。ブルース・リーやジャッキー・チェンとならび「三龍/スリー・リトル・ドラゴンズ」と呼ばれた存在です。その 後映画界を離れていましたが、2000年以降大陸のドラマで復活。48年生まれの60代ながらも『カンフーハッスル』(04)や、昨年5月号で紹介した 『軍鶏』(06)に続き、今年60歳のサモ・ハンとともに衰えを見せない現役のアクションを披露しています。





