「男対男」。映画のコピー通り硬派な作りの作品。ジョニー・トー監督作品でもおなじみのリッチー・レン、日本ではドラマ「上海グランド」のテレビ放映で一 気に日本でも知名度の上がった「最も美しい中国人」の’称号’を持つホァン・シャオミン。でもやはり一番注目されるのはエディソン・チャンでしょう。香港 映画界を引退したエディソン最後の作品として一時はお蔵入りになりかけた作品ですが、その後、編集をし直したのではとも言われていますが、香港では1年遅 れで公開されました(中国大陸ではDVD発売のみ)。
エディソンが演じるのは腕の高さでSDU (Special Duty Unit・特殊任務部隊)に大抜擢をされながら、自信ゆえに孤立してゆく香港警察の狙撃手。 警官とて普通の人間ですが、聖人君主であることが求められてしまう職業。いくら狙撃の腕が良くても協調性を欠く行動は許されず、常に上司の命に従い、組織 の一員であることが優先される。そして過剰な自信は身を滅ぼすことに繋がる。この教訓は、エディソンの実人生では活かされなかったなぁなどと思いながら見 てしまうのも映画の楽しみ方でしょうか。エディソンが修理に出したコンピューターにあったスキャンダラスな写真の流出で、写真に写っていた女優たちが活動 休止に追いやられ、彼自身が引退を表明したのが二年以上前。大人のすることは自己責任とは言え、危機管理の甘さは何を招くか分からない…インターネット時 代に寛容さはさらに希薄になっているのかもしれません。
エディソンの日本初お披露目は2001年。『ジェネックスコップ2』(00) の公開に合わせてキネカ大森でサイン会つきの上映イベントがあり、筆者は司会・通訳を担当しましたが、カナダ育ちのエディソンの雰囲気や喋り方はいかにも 「北米のティーンエージャー(1980年生まれのエディソンは当時すでに二十歳になっていたのですが)」。所在なく動きがグニャグニャしていた記憶があり ますが、それもポルトガルの血が入った愛嬌のある表情と相まって、会場の女性たちの母性本能にかなりアピールしたようでした。その後『インファナル・ア フェア 無限序曲』(03)、『同じ月を見ている』(05)、『ドッグ・バイト・ドッグ』(06) などを経て、あの幼さが残っていたエディソンも大人になったなぁ…と勝手に保護者目線で思っていたのでした。
リッチー・レン演じるフォンは狙撃大会4連覇という実力の持ち主で、隊員からも信望の厚い隊長。そして隊内で唯一500メートルの的を狙える実力者である が故に、4年前にある現場で上の指示に背いた狙撃が原因で、過失致死罪の刑に服していたリン・ジンをホァン・シャオミンが演じる。エディソン演じる新米狙 撃手OJはエディソンお定まりの血気盛んなタイプで、出所したリンと偶然バーで遭遇し、フォンとは異なる狙撃方法を教わったことをきっかけに、フォンと OJの間に溝ができてゆく。フォンのよき理解者でもある狙撃班の同僚、シェーン(ボウイ・ラム)はフォンとOJの間に4年前のフォンとリンのライバル意識 に似たものを感じ、また出所したリンをも気遣うのだが、リンはフォンへの復讐に燃えている。4年前にあったことの真実とは…。 後半の山場の運びはリンとフォンの個人的な恨みに狙撃班が巻き込まれていく理不尽さを覚えつつ、生き残るのは誰か…これも見どころかもしれません。
SDUという特異な職場を背景に、組織における上下関係、出世欲、ライバル意識といった普遍的な感情をあぶり出すストーリーは見応えがあります。ただ職場 では人格者ながら自身の家庭は崩壊しているフォン、OJにはしがない父親とガールフレンドを登場させ、こういった人間模様を匂わせながら、その後うまくス トーリーに絡んでこない。銃器オタクのダンテ・ラム監督、主役はあくまで銃と銃撃戦に据えた感が強く、いくつか脚本に抜け落ちた部分があるような印象が拭 えないのですが、それはエディソンの露出を控えるために映画を短く編集せざるをえなかったことにもよるようです。
この作品を見ながらジョニー・トーの『マッド探偵』(07・ 映画祭上映のみ)が連想されました。一人の人間が持つ多様な側面それぞれを人格として透視出来る元刑事の苦悩が描かれるこの作品は、刑事物でありながら心 理サスペンスであり、一度見ただけでは混乱してしまう複雑さがありました。狙撃の名手、リンが自分を追いつめて行く様をホァン・シャオミンは鬼気迫る演技 で見せ新境地を開いています。青島生まれのホァン・シャオミン、1996年に入学した北京電影学院演劇科の同期はヴィッキー・チャオにチェン・クンとス ター揃い。一時は低迷期もあったようですが、今では俳優業への迷いは消えたようです。
台湾出身のリッチーは『エグザイル/絆』(06) では飄々とした狙撃の名手を演じていましたが、ここでは完璧なようで落ち度もあれば心の闇もあるフォンを好演しています。昨年東京フィフメックスで上映された『意外』(09) でも普通の人の謎の部分を演じる巧みさが印象的でした。こちらも是非とも公開を期待したい作品です。 ボウイ・ラムが損な役なようで好印象を残し、その風貌からも作品に人情味を与えています。そしてジャック・カオやリウ・カイチーと言ったお馴染みの芸達者 が脇を固めています。 ダンテ・ラム(林超賢)監督は『ツインズ・エフェクト』(03) 以来日本では公開作はありませんでしたが《証人》(08) が話題になり、昨年の香港電影金像奨ではニック・チョン(『エグザイル/絆』)に主演男優賞、リウ・カイチーに助演男優賞をもたらしました。現在香港ではリッチー・レン、レオン・ライ主演の《火龍》が公開中です。
《証人》のように受賞作、かつニコラス・ツェー主演でも公開がされないというのは香港映画の日本での今後が心配されます。今後はたとえば地味でも映画とし て骨組みがしっかりしている見応えのある作品が公開され、香港映画ファンを超えて広範囲の映画ファンに劇場に足を運んでもらう作品が必要だと思いますが、 配給会社にしても悩ましいところでしょう。
その後、エディソンはどうしているのか。最近では東京や自身のファッション・ブランドの店舗がある台北や上海にも出没しているようですが、昨年スポーツ・ ブランドの宣伝でシンガポールを訪れた際のインタビューではこう語っていました:「ここ7-8年は休みなくやってきて、今までいつも休みが欲しいと思って きた。不本意な休暇ではあるけれど、ロサンジェルスではジムに通い、読書をする時間も十分あり、映像製作の夏期講座にも参加、将来は映画をプロデュースし たい。自分の間違いを見つめて成長することが出来たと思う。チャリティーのことも勉強していて、シンガポールでのギャラは全額ジェット・リーのOne Foundation/壹基金に寄付をする。ぼくが企業の招待で上海にバスケット・ボールの試合を見に行ったら、ジェットは子供たちのための区画を確保し ていたんだ。彼ほどではないにしろ、もしぼくにも影響力が残っているなら同世代の人たちに自己中心的なだけではいられないというメッセージを発して、恵ま れない状況にある子供たちを救いたい。」
現在中華系アメリカ人バーサ・ベイサ・パン(Bertha Bay-Sa Pan/潘貝莎)監督の《Almost Perfect》が最終編集段階にあるようです。このロマンティック・コメディでエディソンはハワイ出身の中華系クォーターの主演女優ケリー・フーの弟役 を演じているとのこと。エディソンのセンセーション引力によっては公開の機会があるかもしれませんね。

















プログラムAに関して紹介しますと、字幕ではなく日本語ナレーションになりますが、牧歌的な雰囲気が損なわれることはありません。1975~1994まで 放映されたテレビ番組「日本昔ばなし」に通じるところがあり、いつの世も子供にはこういう優しいアニメーションを見て育ってほしいものだと思わせます。 「経典アニメと呼ばれる最高級作品集」というサブタイトルにふさわしく、もちろん大人が見ても心が洗われます。『おたまじゃくしが母さんを探す』は琴線 に、そして涙腺に触れる名作です。‘泣かせよう’という映画ではない、人間の根源に近いきれいな涙が流れる映画というのは人間性の一番シンプルな一面を描 いているからでしょうか。『火童』も勇気、正義、親子の愛の気高さが力強いタッチで描かれています。
画風にとてもユーモアがあり、これまたユーモラスな音楽との相乗効果で、極端に単純化された線描が多くを語っている『三人の和尚』。このお坊さんたちが暮 らすのは山寺。とはいってものどかな風情ではなく、尖った山のてっぺんなのです。都市化、近代化による疎外感、家庭内不和など理由は様々ですが、中国で今 仏門に入る人が増えているという報道を耳にします。だが仏の道は厳しい。お坊さんも最初から悟りを開いている訳ではない、煩悩もあれば楽だってしたい…そ んな三人の和尚を見守る仏様の柔らかな印象も味わい深い、楽しい作品です。
第二次世界大戦後の中国は、国内の混乱を経て中華人民共和国となった。そして中国のアニメーション界も、長い空白の時をこえて再び始動する。中心となった のは、アニメーション制作に燃える漫画家特偉と、戦争末期中国に渡って残留した持永只仁等であった。それに呼応するように万兄弟も合流して、1957年国 立アニメーションスタジオ「上海美術電影制片厰(上海映画制作製作所)」が発足する。これにより中国のアニメーション制作の基盤が確立する。途中1966 年に始まる文化大革命の嵐による空白を乗り越えて、最盛期には500人を有する中国最大のアニメーションスタジオに発展し、特偉や持永等の指導のもと70 年代後半からは、世界に通用する多くの優れたアニメーション作品、そして作家を輩出するのであった。
『ナーザの大暴れ』は、中国を代表するアニメーションである。1980年の日本公開時、その大胆な展開と、京劇の躍動感そのままにシネマスコープの画面を 駆け巡る主人公ナーザの勇姿を、アニメーションファンのみならず、宮崎駿等、多くのアニメーション関係者が絶賛した。中国建国30周年を記念して制作され たこの動画枚数5万枚の大作の監督は、ベテラン王樹忱、厳定憲、徐景達(阿達)の3人。当時中国アニメーション界の最強トリオで、この作品にかけるスタジ オの意気込みを感じさせる見事な出来映えであった。 『不射之射』は、川本喜八郎監督が、中国で制作したいと熱望した作品であり、川本の願いを中国側が友情で受け入れ、実現した作品である。川本は、単身上 海にスタジオに渡り、中国の人形アニメーターを育成しながら制作にあたった。それまでの川本作品に見るストイックな世界が消え、上品でユーモアが漂う作品 となった。この作品は1988年、中国で初めて開催された第一回上海国際アニメーション映画祭で、審査員特別賞を受賞した。プレゼンターは、病をおして訪 中した手塚治虫。手塚にとっては最後の国際映画祭への参加であった。
『猿と満月』は、中国が誇る剪紙(切紙)アニメーションで、切り紙の猿達のかわいらしさが際立ち、その繊細な表現に思わず目を奪われてしまいそうになる味 わい深い作品である。監督は、ベテランの周克勤。 『蝴蝶の泉』は、洗練されたモダンなキャラクター造型、そしておさえた色彩設計が、この悲恋物語を一層華麗にしている。何よりも光と影のコントラストに 感心した。監督は『ナーザの大暴れ』の徐景達と常光希。常光希は、中国アニメーション界がその威信をかけて4年の歳月と1200万元の費用を使い1999 年に完成した超大作アニメーション『宝蓮燈』の監督その人である。
今回のプログラムで注目したいのは、中国のお家芸である水墨画アニメーションの傑作が、3本も含まれていることだ。『牧笛』、『琴と少年』の監督は、中国アニメーションのパイオニア、特偉(『琴と少年』は閣善春、馬克宜と共同監督)。





