殺し屋は普段どうやって生活しているのか。仕事の依頼ベースで稼働するとすれば、筆者のようなフリーランスに近いのかもしれない。あるいは全く違う職業を隠れ蓑に営んでいるのか。殺し屋にとって家庭はもってのほか、または一般庶民の生活を送るべきか。
本作の主演はパリでレストランを営む初老の男、コステロ(ジョニー・アリディ)。マカオに住む娘とその夫と孫たちが殺し屋に襲われたと聞き、マカオにやっ てきた。かろうじて命だけは助かった娘は、父に復讐を託す。殺し屋と対等に撃ち合う娘からしてただ者ではない。香港の殺し屋三人組と偶然知り合い、コステ ロは彼らを雇う。外国でも渡っていけるその触角と自信は、かつて自分も殺し屋だったからだろう。そこから四人の男たちの間に、依頼主とそれを請け負う関係 を超えた友情が生まれていく。そして復讐は行われるのだが…。
殺しの現場写真を警察から盗み出したコステロは、そこに「娘」、「義理の息子」、「孫」、そして「復讐」-本作の原題の意味- とペンで書いていく。クワイ(アンソニー・ウォン)率いる殺し屋チームの面々の写真も撮り、チュウ(ラム・カートン)、フェイロク(ラム・シュ)と名前を そこに書いていく。過去の銃撃戦で脳に銃弾が残っているコステロは、定期的に記憶を失くしてしまう病気を患っており、遠からずすべての記憶を失ってしま う。
本作のコピーにある通り、「記憶を失くした男に復讐の意味はあるのか」。悲しみや憎しみの記憶が消せるなら、生きやすいのではないか。しかし、腕に覚えのあるコステロは違う。記憶を失くす前に復讐を終えることに執念を燃やしている。
本作ではコステロの娘たちを襲った殺し屋たち(チョン・シウファイほか)の日常も垣間見せる。表の顔は、彼らもまっとうに生きる家庭人に見える。「目には 目を」が復讐の流儀ならば、殺す対象である仇の側にも残される家族があり、そこからまた憎しみの連鎖が生まれるのではないか。映画の中には孤児たちが出て くる。抜き差しならぬ理由でそこに残されたであろう子供たちの元にコステロが戻るのは、ちょっと皮肉だ。
2007年頃、アラン・ドロンがトー監督の作品に出演という情報が流れていた。ジャン=ピエール・メルヴィル監督(1917-1973)を敬愛するトー監 督なら、メルヴィル映画の常連であるドロンの起用は長年の夢だったのでしょう。「メルヴィルは香港のアクション映画に多大なる影響を与えている。現代的な ヒーローたち、ロマンチシズム、そしてそのスタイル、メルヴィル映画の革新的な部分が香港映画に溶け込んでいる」とはトー監督の弁。香港やマカオの極めて ローカルな雰囲気をとどめてきたトー監督の作品に、ドロンがどう馴染むのか興味を惹かれた。出演には乗り気だったドロンだが、トー監督が提案した ”Gunfight(決闘)”と名付けた作品のアイデアをドロンは気に入らず、後にフランスの人気ロック・スター、アリディをプロデューサー(メルヴィル 監督の『ギャング』のリメイク、『マルセイユの決着』や『TAXi』 シリーズも手掛けたミシェル・ペタンとロラン・ペタン)から紹介されて起用に至ったという。
アリディのことは知らなかったというトー監督だが、「彼のコンサートの様子を納めたDVDを観た。私がロック好きということもあり、彼の男臭さが魅力的 だったね。それにかつて情熱的だったに違いない、過去を思い起こさせる目」。確かにアリディの狼のような小さな目は異様な輝きを内に秘めている。「ドロン に対する尊敬の気持ちは今でも変わらない」というトー監督。だがもし主役がドロンだったら、かなり性格を異にする作品になっただろう。どちらにせよ、主役 がトレンチ・コートのよく似合う男であることに変わりはない。あまりに有名なドロンに比べれば、日本での知名度は高くないアリディの方が役にはしっくりく るのかもしれない。
本作の撮影で、初めてアジアを訪れたアリディ。「私の役柄にはピッタリだった。彼は香港で一人、途方に暮れている。まさに私と同じなんだ。 -中略- 実際、映画のコステロのように疎外感を味わったよ。だからそのリアリティーがフィクションに役立つことを証明出来た。」そしてほかの役者たちと、うんざり しながらも毎度の中華料理を食べることを自分に強いたとのこと。トー監督に対しては「朝早く起きて、プライベートなんて殆どない状態で、一日中仕事に没頭 している。またすばやく気分を変えることができる。-中略- とにかく集中力が並じゃない。彼は楽しい時は表情に出すから、中国では珍しいタイプだよ。細部にわたってリハーサルをしてから、2~3度撮影をする。」共 演者たちに関しては「演技の仕方が並大抵じゃなくて、フランス人の演技とは全く違うんだ。彼らの仕草はスタイリッシュで、見栄えが良くてハマっている。そ れから惨劇シーンで繰り広げるユーモアのセンスがいい。」
本作は『ザ・ミッション 非常の掟』、『エグザイル 絆』に 続く ‘トレンチ・コートの男たち’ ノワール・アクション三部作の最終章。脚本は『ザ・ミッション 非常の掟』も手掛けたトー監督の右腕ワイ・カーファイ。ここでもトー監督のスタイルが踏襲され、ゆっくりとしたペース、スロー・モーション、カメラ・ワー ク、立ち位置の構図、そしてあちこちに遊び心溢れる小道具が散りばめられている。ただ本作は、『エグザイル 絆』ほど様式美に満ち満ちておらず、音楽も控えめな印象。ちなみに監督のお気に入りは、森の中のガンアクション・シーンだとか。光源は月の光のみという印 象的なシーン。銃撃戦や血が飛び散る映画は苦手な私でも、トー映画に魅せられてしまうのは、男たちの可愛げのある描写でしょうか。明日もわからぬ男たち、 約束をしない男たちだとしても、子供の心を持った男についこちらも心を許してしまう…。見ている女性たちは皆ミシェル・イェ演じる肝っ玉母さん、「ビッ グ・ママ」のような気持ちになるのでしょうか。
中国杭州出身のミシェル・イェは11歳の時にアメリカに移住。広東語は高校のクラスメートたちから習ったという。高校を首席で卒業したことから大学の奨学 金を得たものの、99年に香港で開催されたミス国際華僑(Miss Chinese International)に選ばれたことを機に、大学は一年で辞め芸能界入り。トー監督プロデュース、ソイ・チェン監督(『軍鶏』)の<意外>(09年)で今年の第29回香港電影金像奬の最優秀助演女優賞を受賞しています。
三部作の最終章ならばとトー監督は、一部と二部にも出ているフランシス・ンやロイ・チョンにも出演のオファーをしたとのこと。彼らのスケジュールが合っていれば…残念です。
今回もキレたボスを演じるサイモン・ヤム。敵役ジョージ・ファンの安っぽさを好演してくれています。
英国人とのハーフであり、『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘密』(08)といったハリウッド作品に出ている国際俳優だけあって、英語の台詞もこなしたアンソニー・ウォン。演じるのが三度目のクワイ (鬼)役に関しては、「コツを覚えたし、”よりハイセンスな”思慮深さも備わった。ユーモアのセンスもね。成熟したんだ。」と語っている通り、ひときわ決 まっている。トー監督に対しては「ぼくは彼が大好きだよ。ぼくらに好き勝手にやらせてくれるからね。ぼくらの最高の部分を引き出してくれるし、うまいメシ にありつける。」
香港映画には欠かせないラム・カートンとラム・シュ。二人の英語は使い物にならなかったそうで、それぞれも英語の台詞はそれぞれをテレンス・インとコンロ イ・チャンというアメリカで育った俳優が吹き替えています。始めは聞いていると声の主の顔が浮かんできますが、雰囲気や体型が近いせいか違和感もなく、ま た聞き取りやすい英語になっています。ニックネームは相変わらず「デブ」のラム・シュも、なんだか今回はかっこいい。背負うものは大きくても、堅気の人間 にはない恐れを知らない無邪気さ故でしょうか。
トー監督は、オーランド・ブルーム(『ニューヨーク、アイラブユー』) 主演でメルヴィル監督の『仁義』(70)のリメイクを準備しているようです。(*この件は現在進行していない模様です)しかし香港で撮ることへのこだわり は強く、インタビューでも次のように語っていたそうです。「香港が中国に戻って10年以上が経った訳だが、その間映画産業にも少しずつ(中国)大陸の風が 入ってきている。大陸は芸術作品に対する検閲が厳しいので、大陸の資本が香港映画に侵食してくるとなると、それは香港映画の色を損なう結果に繋がると私は 信じている。勿論、ハリウッドやヨーロッパなど世界に進出して多くの作品を手掛けたいとは思うし、今回はその第一歩が踏めたという、非常に意味と価値のあ る作品になっている。しかし、こんな状況下で香港を留守には出来ない。香港を守りながら今までもこれからも、香港を基軸に映画製作を進めて香港映画、アジ ア映画がより活性化していくための土台作りをする事で、次の若い世代の後押しをしたい。そう、今最も必要なのは映画界の若手の育成だと私は考えている。特 にアジアの。」


















◎北京電影学院へ
◎帰国?『トロッコ』に至る
『トロッコ』には日本統治時代を経験した世代の台湾人の日本への愛着が描写されていて切ない。日本人がその思いをあまり知らないのでは、まるで片思いのよ うではないか。筆者もシンガポールに住んでいた高校時代に、地元の人たちに日本語で話しかけられたことがある。彼らが話してくれた経験談は聞くのが心苦し い日本軍の残虐行為であったりしたけれど、それは私を責めるためではなかった。彼らにとっては無理矢理に教えられた日本語だとしても、懐かしくて話した かったのでしょう。そして何があったかを忘れないで欲しいという気持ち。
◎ リー・ピンビン映像の魅力
◎一番始めにコンタクトを撮った俳優 ブライアン・チャン





