カンフー映画に詳しくない人でもジャッキー・チェンの日本初公開作品、『ドランクモンキー 酔拳』(78)のことは知っているかもしれません。ジャッキーが扮していたのは清朝末期に実在した武術の達人ウォン・フェイフォン(黄飛鴻)。師匠の蘇化 子から酔拳を伝授され、仇と闘うという話ながら、酒に酔ったような動きとジャッキーのお人好しな雰囲気からそれまでのカンフー映画とは一線を画すコメ ディ・タッチで大ヒット。ジャッキーと酔拳の名は広く知られるところとなりました。
『酔拳 レジェンド・オブ・カンフー』を監督したのは『ドランクモンキー 酔拳』で蘇化子を演じたユエン・シャオティエン(袁小田)の息子、ユエン・ウーピン(袁和平)。そして『酔拳 レジェンド・オブ・カンフー』の主人公こそ蘇化子の元になっている伝説の武術家で、本作の原題でもある「蘇乞兒(=乞食の蘇)」。それだけに演じられる役 者を選びますが、スー・サン(後の蘇乞兒)を演じるのはチウ・マンチェク(英語名:ヴィンセント・チャオ)。
ハルビン出身のチウは8歳から武術を始め、中国武術大会で優勝の経験もあります。北京体育大学在学中にコーリー・ユエン(元奎)監督にスカウトされ、92 年にジェット・リー主演の『レジェンド・オブ・フラッシュ・ファイター 格闘飛龍』で映画デビュー。この作品を見たツイ・ハーク監督が、ジェット・リーがウォン・フェイフォン役を降りた後のワンス・アポン・ア・タイム・イン・ チャイナ シリーズにチウを抜擢したことから、大学に残り武術を教えるというキャリアは三ヶ月で終了したそうです。チウの20歳頃の勇士はこちらやこちらの 動画でもご覧いただけます。その後テレビ・シリーズとなったワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ シリーズでもチウは主演し、今まで一番多くウォン・フェイフォン演じているであろう彼が、十八番であるウォンの師匠であるスー・サン/蘇乞兒を演じるのは 当然かもしれない。
しかしビジュアル的に「あの白塗りは誰だ?」と一番の話題をさらっているのはアンディ・オンではないでしょうか。こちらの英語版サイトで は主役扱いです。アンディはアメリカ出身。ジェット・リーが主演した『ブラック・マスク』の続編、『ブラック・マスク2』の出演を辞退したことからツイ・ ハーク監督に抜擢され『ブラック・マスク2』で主役として映画デビューしたという経緯はチウと似ています。ジャッキー・チェンのスタント・チームや少林寺 で武術の腕を磨きましたが、今では『インビジブル・ターゲット』や『MAD探偵~7人の容疑者』などアクションに限定されないより演技力を要する役柄も増えています。アンディ演じるユアンはかつてスーとは戦場で戦う仲間でしたが、妹シャオイン(ジョウ・シュン) とスーが結婚をしたことから嫉妬の炎を燃やし続けます。そしてユアンは育ての親であり、実の父の仇でもあるスーの父親への復讐の期を狙い、仇討ちの為に五 年をかけてユアンが身に付けたのが、実の父が武術の正道を外れ身を滅ぼした原因でもある五毒蛇拳。スー一家の前に姿を現したユアン率いる一派はコスチュー ムも決まっていて、このゴシック系のダークさはかなり欧米ウケしそうです。兄弟愛を超えたシャオインへの執着といい、ユアンはまさに毒気づいており、必殺 兵器を身にまとっている。高尚のような風貌のスーとはいい対比ですが、スーはユアンに息子のフォンを取られたまま河に落ち、シャオインも彼を追って飛び込 みます。
山に住む医者のユ(ミシェル・ヨー)に助けられたスーとシャオイン。ケガを負い、自分の無力さから自暴自棄になるスー。シャオインはヨの酒造りを手伝い生 活をしていくが、スーはその美酒に溺れるばかり。ここではジョウ・シュンの献身的な妻の姿が可憐で、酒造りの様子といい、ミシェル・ヨーともどもボヘミア ン風ファッションがいい雰囲気を作っています。この山の風情がいかにも仙人が住んでいそうですが、強くなりたいと願い修行に励み続けるスーの視界に、飛ぶ ように空を駆けるヒゲ仙人(ウォン・フェイフォンの直弟子の林世榮を師匠に持つ劉湛の養子になったため、ウォンの教えを引き継いでいるゴードン・リュー)と武神(『言えない秘密』、『カンフー・ダンク!』のジェイ・チョウ) が現れます。彼らの武術を目の当たりにし、弟子入りを乞うスー。ヒゲ仙人に武神を倒せば弟子にすると言われ、毎日果敢に武神に挑むスー。日々ぼろぼろに なっていくスーを心配し、彼の後を付けたシャオインは、彼を置いて一人山を降りる決断をする。その頃スーはまさに酔拳を極めんとしていた…。
ユアンとの死闘を経て、スーは生きる意味を失う。黒龍江にある街に流れ着いた彼を再度奮い立たせ、酔拳に威力をはっきさせたのはかつての忠実な部下マー(『天安門、恋人たち』、『エンプレス 運命の戦い』のグオ・シャオドン)と息子フォン。ここからはロシア人などを相手に異種格闘技の様相を呈し、『イップ・マン 葉問』でも見られたような、西洋に対し中国の誇りを顕示する見せ場となります。
あらすじを追っていくと、鮮やかにシーンが浮かぶようで、三部構成に無理が感じられなくもない。第一部は時代劇とアクション、第二部は牧歌的風景とアク ション、第三部は現実的な描写とアクション。繋がっている話ではあるけれど、オムニバスを三人の監督が撮ったようでもある。そこは『マトリックス』 (99)、『グリーン・デスティニー』(00)、『キル・ビル』(03)、『カンフーハッスル』(04)、『女帝』(06)、『SPRIT スピリット』(06) 、『ドラゴン・キングダム』(08) といった作品でアクション監督として名高いユエン・ウーピンが監督ということで、伝説に彩られた蘇の人生を丁寧に描きながらアクションもふんだんに散りば めるうちに盛り沢山になってしまったのかもしれない。本作はほかの国によっては3D版の上映もあり、それを踏まえた見せ場を作ったということもあり、一本 で二本、三本と楽しめる充実感があります。
そしてキャストやスタッフの豪華さは香港出身の敏腕プロデューサー、ビル・コン編成チームによるもの。ジェット・リー主演『SPRITスピリット』の製作陣が集まり、脚本をクリスティン・トー(『ベルベット・レイン』(04)、『SPRITスピリット』(06)、『言えない秘密』(07)、『殺人犯』(09))音楽を梅林茂(『王妃の紋章』(06)、『SPRIT スピリット』(06)、『殺人犯』(09))そしてアクション指導はもちろんユエン・ウーピン率いるユエン家班が手掛けている。
撮影は『LOVERS』(04) 以来多くのチャン・イーモウ監督作品で撮影監督を担当するチャオ・シャオティン。『王妃の紋章』(06)、『エンプレス 運命の戦い』(08)、『カンフー・ダンク!』(08)、『ラスト・ソルジャー』 (10)といった作品群を撮ってきただけあり、時代劇、牧歌的、アクションという本作の多様な対応できる手腕を兼ね備えています。来月紹介する『サンザシ の樹の下で』もチャオの手によるものですが、こちらはまたタッチの異なる、静かな感動を呼び起こす作品です。主演の期待の新星、ショーン・ドウのインタ ビューと併せて掲載します。
協力:宣伝 フリーマン・オフィス






















