アジアにおけるセクシュアル・マイノリティたちは、欧米に比べ抑圧が厳しく、性的指向を理由に逮捕・死刑となる国も存在します。そのため、彼らの存在は“タブー”であり、私たちの身近において、その姿を見る・知る機会はほとんどありませんでした。しかし、彼らは確かに存在し、様々な活動を通じてその声を上げ始めています。
映画界におきましても、欧米作品に比べると、アジアのクィア作品は制作される機会が圧倒的に少ないのが現状です。しかし、近年良質な作品が次々と発表され、注目を集め始めています。
このような現状にある今、私たちはアジアという身近な環境で制作された作品を通し、アジアのセクシュアル・マイノリティの姿、ライフスタイル、家族や友達、社会との関係の様々なあり方を紹介すること─偏見がまだ残る日本社会に提示していくこと─に大きな意義があると考えています。
その中でも特に、私たちはインディペンデント映画(自主制作映画)を発掘・紹介することに力を入れております。内容に関しての制約が少ない分、より当事者目線で描けるという利点がありながら、商業作品に比べると、発表する場を得るのが格段に難しい自主制作のクィア作品を発掘・紹介することで、当映画祭の意義をより深くすると同時に、新たな才能を発見、日本および世界の映画製作現場を活性化し、映像文化の発展のための一端を担うことを目指しております。
オープニングはシンガポールの新鋭監督、ハン・ユークアンがトランス・ジェンダー2人の出会いをコメディタッチで描いた名作『海南、潮州と白いブラ』を上映。そしてクロージングでは今年出来上がったばかりの中国作品『花と眉』を日本初公開で上映します!その他にも第59回ベルリン国際映画祭テディ賞の最優秀長編賞にノミネートされ、各国で高い評価を獲得しながらも日本未公開だった『無声風鈴』を始め、2010年度の釜山国際映画祭でワールドプレミアされ、ベストドキュメンタリー賞を受賞した『チョンノの奇跡』、さらには北京のパンクバンド、New Pantsのボーカルとして若者から絶大な支持を受けているポンレイが撮り上げた『パンダキャンディ』、タイ発のキュートなガール・ミーツ・ガール物語『ジェリーフィッシュの恋』、そしてイスラエルアカデミー賞の8部門でノミネートされたほか、謎めいた美しい女性アノークをフランスの名女優、ファニー・アルダンが演じたことでも話題となった「秘密の祈り」と、話題作の数々をすべて日本初公開でお届けします。

毎回AQFFでしか観られない、貴重な作品の数々を上映する短編集では、『881 歌え!パパイヤ』のロイストン・タンが初めてゲイを真っ向から扱った短編『アニバーサリー』や、ハワイ国際映画祭で観客賞を受賞した爆笑コメディ『アジュンマ!正気なの???』、ベルリン国際映画祭で上映された『マサラ・ママ』、そして米軍の同性愛者差別政策「Don't Ask, Don't Tell」に立ち向かい、初めて公にカミング・アウトしたダン・チョウのとある一日を静かに見つめたドキュメンタリーなど、今回もバラエティ豊かな作品が勢揃い。

韓国の映画会社「ジェネレーション・ブルー・フィルム」の代表として、青春映画『俺たちの明日』や、韓国で大ブームを巻き起こした革命的なゲイ映画『後悔なんてしない』ほか、これまでに10本以上もの映画をプロデュースしてきたキム=ジョ・グァンス。彼は2007年の秋から、自らが監督となり映画制作をスタート。同性愛に対して未だタブー感が強い韓国において、キュートな俳優たちを起用し、明るくポジティブな作品作り始めた。監督デビュー作は、韓国の人気ドラマ『風の国』でヨジン役を演じたキム・ヘソンが主演を務めた短編映画『少年、少年に会う』。その後、現在までに3本の短編作品を監督している。今回はその3本すべてを上映する特別プログラム!日本では唯一AQFF2009だけで上映された『少年、少年に会う』の再上映に加え、各地のLGBT映画祭で上映され、大人気を博した『ただの友達?』は、なんと20分のメイキング映像を加えた特別版!そしてジャパン・プレミアとなる新作、『愛は100℃』を一挙上映致します。
8日 『海南、潮州と白いブラ』/ 短編集A「君がいるから」
15日 短編集D「隣のあなた」
17日 『花と眉』
※上映作品、タイトル、ゲストなどは変更される場合があります。何卒ご了承下さい。

















ウォンは、広州系ルーツに持つシンガポール華人。第一言語は英語で、シンガポールで中国の伝統美術を学んだ後ロンドンの大学院に進み、十年住んだ後、現在はトルコに次いでトルコ人の人口密度が高いベルリンのクロイツベルグ地区にアトリエを構えている。本人曰く、「当時全くファッショナブルじゃなかったけど」最初にシンガポールの美術学校で中国の美術を学んだのは自分のルーツに関心があったから。
ウォンはイギリスでは美術館で様々な背景、年代、知識レベルの人たちに作品を紹介するガイドの仕事をしていたことがあるという。そして聞き手の関心度や理解度をすぐに把握し、それぞれに即した話法(しては演技法)を身に付けたと言う。その際、自分が「シンガポール人です」と言うと(シンガポールは英国の旧植民地だったにも関わらず)、それを聞いた人はポカンとしたという。それは、シンガポール人のイメージが湧かないから。「日本人です」といった場合、ソニー、侍、アニメ、寿司、満員電車であれ何らかのイメージが連想されるだろう。それは日本が古い国で、基本的に単一民族だからということもあろう。シンガポールはといえば、マレーシアからの独立は1965年。人口の75%近くを占めるのは中華系の人々だが、華人とマレー系の間に流血の人種対立も経ながらも、今でもマレー系(約13%)、インド系(約9%)、残りはその他の外国人が居住する。
人種混合都市国家故に政府は英語教育に熱を入れ、ウォン(71年生まれ)前後の世代の人々は、英語が母語の人々に比べ遜色のない英語を話す人も多く、留学をするなら英国というのが一般的だった。ただ日常シンガポール人同士が話すときは「シングリッシュ」というローカル化された語彙とアクセントを持つ英語が話される。政府はその後、異なる方言を話す中華系の人々に共通言語を与えようと、標準語とされる「マンダリン(華語。基本は北京語/普通話と共通である)を話そう、方言はやめよう」キャンペーンを打ち立てた。
ヨーロッパでウォンは、誰にでもなれるという利点を見出した。つまり彼は表現者として自由を得たのだ。一人何役も演じるというスタイルで、05年に彼がまず取り上げたのはかつての自分の、そしてシンガポールのルーツであるマレー文化。それを集約するのは子供時代にウォンがテレビで見たシンガポール映画の黄金時代のスターで監督、脚本、主演、楽曲を手掛け自らも歌う
「イン ラヴ フォー ザ ムード 華様年花」(09)の元の題材は、もちろんウォン・カーウァイの『
同じく09年の「ライフ オブ イミテーション」は、アメリカで人種問題を初めて真っ向から描いた1959年のダグラス・サーク監督(ドイツ出身。妻がユダヤ人だったためアメリカへ亡命。)作品『悲しみは空の彼方に イミテーション オブ ライフ』の1シーンを扱う。黒人の母、白人との混血で、白人として生きることを選んだ女優志願の娘、娘のショーガール仲間の三人が登場するが、ウォンはこれをシンガポール人の中華系、マレー系、インド系の男優に入れ替わり立ち替わり演じさせることで、人種の違いを浮き彫りにしている…、いや、人種の境を曖昧にしているばかりか、性別まで超えている。
不安を掻き立てながら、作品をある種コメディに作り変えているのは秀逸。最新作でウォンは、男性から女性に性転換したトルコ人のディーバ/人気歌手、ブレント・エルショイ(Bulent Ersoy)に扮している。彼女は一時は弾圧されドイツに移住したが、政権交代後に帰国。クルド人迫害の内戦で、息子を兵に取られた母親たちを代弁し、男から女、今ではトルコの母親たちの声を代弁している。
今年40歳のウォンは、『ベニスに死す』に登場する初老の男より20歳若く、美声年より20歳年上だと言った。自分自身、そしてアーティストとしての立ち位置を確認している節目の年ながら、彼のスタイルは確立され、さらに今後の自由な展開が期待できる。周りのサポートに恵まれ、今回の原美術展での展示もスタッフの展示を最高に見せようという心意気が感じられる。
今回の展示では、ウォンの映画への愛と郷愁が詰まっている。古い映画館を訪ねて撮ったポラロイド写真、シンガポール最後の映画看板絵師、ネオ・チョンテク氏に画家として依頼をした作品、今までも福岡アジア美術館のアーティスト・イン・レジデンスでの日本との合作映画や、昨年の




