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『歌え!パパイヤ』
なんの知識もなくこのシンガポール映画のチラシを手に取った方は、どんな映画だと思われるでしょうか。浅草サンバカーニバル? 美川憲一と小林幸子のような衣装対決? はたまたドラッグクイーン? 違うと言えば違うし、近からず遠からじ。。。
東南アジア育ちの私にとっては肌で馴染んだものがあり、たまらない懐かしさを感じるのですが、これって一般的にはどうなの。。。? でもベタな東南アジアなようで、監督のセンスのよさが端々に伺えます。
しかしながらこれは派手狙いではなく、監督のシンガポールを、自分のルーツを愛する気持ちが昇華された作品です。そして歌のバトルの舞台となる歌台(ゲータイ)は、そもそも旧暦七月の「ハングリー・ゴースト・フェスティバル」に先祖の霊のご機嫌を損なわないように行われる余興。日本のお盆とルーツは同じですが、霊の呪いを避けるべく、シンガポールでは今でも風習が守られているようです:旧暦七月には旅行、水泳、引越、借金の回収はするべからず、等。

社会背景を踏まえずとも歌と衣装(監督自身がデザイン!)、パパイヤとドリアンのシスターズ・バトル、そして人情にホロリとしたり、盛りだくさんな作品です。このトロピカルな時期にご賞味あれ!


『カンフー・ダンク!』
少林サッカーに、今度はバスケット・ボール。そろそろオリンピックでもカンフー絡みの競技が出てもよさそうな気がしますが、反則規定の線引きがしにくいのかも。。。
間違いなく中華圏で一番お金持ちの若者のひとりであるジェイ。音楽の好調なセールスに数々のコマーシャル出演で、中華圏でジェイをテレビで見ない日はありません。
でもなぜか豆腐屋の息子(『頭文字D』)や、この作品のような貧乏君まで似合ってしまう。
そしてカンフーの素地がなくてもなんでも飄々とこなしてしまう(ように見える)のも、天才たる彼のなせる技か?それよりは最高のプロフェッショナルを惹きつけること自体が彼の才能か。
武術(アクション)監督は『少林サッカー』、『HERO』、『LOVERS』に日本の『どろろ』でも知られるチウ・シントン(程小東)。チャン・イーモウと共に北京オリンピック開会式も手掛けるそうです。

8月16日、角川シネマ新宿・シネカノン有楽町2丁目・
アミューズ渋谷CQNほか全国ロードショー
2008年/台湾・香港・中国/北京語/原題:功夫灌籃
配給:角川映画

『言えない秘密』
ジェイ・チョウ、初監督作品。なるほど。。。彼の美意識がよく表れている。今までの彼のCDカバーも彼のデザインにも相通じる、キーワードはヨーロッパ、ショパン。。。? 映画のジェイ君はなかなかのナルシスト振りを発揮してくれていますが、ピアノが題材のせいか自然に見られます。ピアノ・バトルのシーン、悪友たちとの絡み、ライブにダンス・パーティ、そんな青春映画のお約束もありな、共感出来る仕上がりです。 小道具や学校の制服も行き届いていておしゃれ。ここまでジェイ・ワールドが展開されているというのは、優れたスタッフに支えられ、またスタッフもジェイのためにいいものを作りたいというチーム・ワークの賜物でしょう。
そもそも『王妃の紋章』のプロデューサーでもあったビル・コンがジェイの才能を見込んで実現したこの作品。香港出身のビル・コンはチャン・イーモウ作品や『ラスト、コーション』も手掛ける敏腕プロデューサーですが、今年『言えない秘密』を日本で配給するエイベックス・グループの香港の子会社と映画ファンドを共同設立しました。コンは「アジアの映画市場はかつてない成長を見せている。今こそ、アジア映画に投資する絶好の機会と捉えている」と語り、新人監督を発掘・育成、映画デビューさせ、これらの監督のデビュー作品のライブラリを構築していくとのことです。
私にとって台湾映画とはある種生活臭が強いリアリスティックな感じを受けることが多いけれど、設定自体1979〜99年の間でいつでもあり得るレトロさが、この映画に浮遊感を与えている。美術専攻がある高校だけれど、通っている生徒は金持ちという風でもなく、一般家庭の子供という感じもジェイっぽい感じがする。ピアノの王子だけれど、庶民的。この不思議な映像世界を担っているのは撮影監督のリー・ピンビン。 ホウ・シャオシェン(『ミレニアム・マンボ』)やウォン・カーウァイ(『花様年華』)からの信頼も厚い彼の映像世界がジェイの気持ちも代弁しているようです。

映画は後半から謎解きの様相を帯びてきて、ちょっと怖いくらいでした。ジェイの意図がどこにあるのか。一番の秘密はジェイの意図かもしれない。原題が『不能説的・秘密』だけに、秘密は言えないよ、ということかもしれないけれど。 全然似ていないながら、『頭文字D』以来なぜかジェイの父親役がしっくりきつつあるアンソニー・ウォン。国内外あまりに多くの作品に出ていながら日本で公開される作品が少なくて残念ですが、今度はオダギリ・ジョーの父親になりました。ジャ・ジャンクー作品の撮影監督としても知られる香港出身のユー・リクウァイ監督作『蕩冦/プラスティック・シティ』(ブラジル、中国、香港、日本合作)で日系ブラジル人親子を演じているとのこと。こちらは今年のベネチア映画祭のコンペ部門に選出されています。
そしてこの映画の魅力はやはりグイ・ルンメイに負うところが大きいです。チェン・ボーリンと主演して、鮮烈なデビューを飾った『藍色夏恋』。あの爽やかな風のような、中性的な高校生だったルンメイちゃんもステキな大人になりました(でもまだ高校生を演じてしまうけれど)。はかなげで、でも芯のある彼女が演じたからこそ映画の後半が「うらめしや?」とならなかったのかも。いえ、ホラー映画ではありません。安心してジェイの世界に浸って下さい。


『小さな赤い花』
初めて幼稚園へ行った日を覚えていますか。私はわんわん泣いて、母の手を離そうとしませんでした。幼稚園や保育園は子供にとって初めての社会生活の場。人間形成の第一歩。 映画の舞台は「全託」と言われる寄宿幼稚園。親の共働きが当然の中国では全託小学校もある。全託だと起床就寝時間も徹底していて子供に規則正しい生活が身に付く上、多くの習い事の選択もあるため親も安心だとか。 高校から寄宿学校だった私でさえ、2年くらいは絶えずホームシックだったけど、親離れには丁度いい時期だった。しかし幼稚園からとは早過ぎないか。北京に住む中国人との間に子供がいる外国人の友は、「子供には絶対中国の教育は受けさせない」と、高くても外国系学校に通わせている。確かにこの映画で描かれているような幼稚園だったら親としては情緒教育面に不安があるでしょう。
チャン・ユアン監督曰く「多くの心理学者は3歳児からの年代は人間関係を築く決定的な年代だと言います。ですから、私はこの年代の子供達を捉え、性格、そして個々の社会関係の成長を描こうと思いました。人は、子供時代は楽しかったと言います。しかし、この映画を作っていく段階で、子供時代は人が思うようなものではありません。子供の人生はもっと複雑で、そして希望、失望、特に寂しさは大人同様で、一生残存する可能性もありうるのです。」
李先生が怖い。1987年の名作『芙蓉鎮』の政治工作班、李班長が思い出されました。私は両親に連れられて劇場で見たこの初めての中国映画によって「けたたましくて怖い」中国の女性像が出来上がってしまいました(当時は中国や映画の知識もほとんどなく、主役のチアン・ウェンのことも知りませんでしたから)。 知人であまりトイレに行かない人がいますが、「幼稚園の先生が怖くてトイレに行きたいって言えなかった。我慢しているうちにあまりトイレに行かない体質になった」とか。幼い子供にとって、先生は「妖怪」のような存在になりうるのでしょう。でも李先生を見て、人間には自由でありたいと同時に支配したいという矛盾した願望が同居することも気付かされます。 なんだか深刻で怖い映画? いえいえ、中国を知るヒントが隠されていて楽しい。例えばみんな一緒の仕切りがないトイレ。中国のトイレでドアがあっても閉めない人がいるのはこれか?(お尻を壁に向けているので目と目が合うんです)。男の子の履く裂け目のある「どこでもトイレ」ズボン。いえいえ、もちろん注目は子供たちの微笑ましい自然な演技。姉妹役の姉、北燕を演じているのは監督の娘です。

作家ワン・シュオに原作を贈られてから完成に6年をかけた本作。「まるで地雷原のようにルールが多い」中国の検閲制度という制約の中で、したたかに挑戦し続けるチャン監督のひとつの答えがここにあります。「現在の中国では、私は直接の手法で社会問題を具体化することができない。だから私は子供の小さい世界に助けを借りることしかできず、今日の社会を比喩している。私は幼稚園の寓話ストーリーが大人社会でもつうようすることを願う。私はここで皆さんが集団と個人との矛盾した関係を見られること、また個人と栄誉の錯誤を見つけることを望む。『小さな赤い花』に出現するいくつかの問題はとても現実的な意味を持っていて、私はこの値打ちのある討論を永遠にし続けたい。」
中国とイタリア合作の本作品のプロデューサーはイタリア出身のマルコ・ミューラー。ロッテルダム映画祭を経てロカルノ国際映画祭のディレクターだった1999年にチャン監督『ただいま』のプロデューサーを担当し、この作品はヴェニス映画祭監督賞を受賞。そして2004年以降ミューラーがヴェニス映画祭のディレクターを担当していることを考えると、ミューラーの才能を発掘、支援をすることで自身も監督も国際的評価を高める手腕が見て取れます。海外では映画祭のディレクターを外国人が務めることは珍しくなく、ディレクターによって映画祭の特色や方向性が決まるとも言えます。
この作品にもイタリア映画的質感が感じられます。殺風景な壁が戦時中を思わせたり、李先生がうっすらとホラーの色を帯びていたり、イタリア映画=子供たちがうまいという私の先入観もあると思いますが、音楽もかなり影響しているのでは。音楽が耳につき、たぶんにイタリア調なのは監督の意図か、資金の問題か(その国のファンドが下りるためには、人材の雇用率を満たす必要が生じる場合があります。この作品に関しては未確認なので勝手な憶測ですが)。
多様なスタイルの作品を撮っているチャン・ユアン監督。1997年のドキュメンタリー『クレイジー・イングリッシュ』をオリンピックが行われるに至った今見直すと感慨深い。英語教の教祖のようなリー・ヤンの例文は「never let your country down(祖国を失望させるな)」、「英語をマスターして日欧米に追いつけ、お金儲けをしよう」、「外国人に中国語を学ばせよう!」まんまと私も彼の言うとおりになっていますが、語学上達の敵は羞恥心。「I enjoy losing face(大いに恥をかこう)!」
8月23日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー
2006年/中国・イタリア/北京語/原題:看上去很美
配給:アルシネテラン
映画プレゼンター 松下由美