中国映画情報!今月の紹介は「「戦争のレクイエム」「天使の眼、野獣の街」「香港電影天堂~HongKong Movie Paradise~」です。

中国映画情報
映画プレゼンター、松下由美さんが中国語圏の映画を紹介するコーナーです。
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2009年1月
『戦争のレクイエム』・『天使の眼、野獣の街』
『香港電影天堂~HongKong Movie Paradise~』

戦争のレクイエム│天使の眼、野獣の街

戦争のレクイエム│イメージ 新年快?!昨年は心に残る作品との出会いがあったでしょうか。今年も中華圏映画は話題作、小粒で光る小品など公開作が続きます。どうぞおつきあいください。

『戦争のレクイエム』

中国で公開をされたのは2007年末。最初にこの映画のビジュアルを見た時は抗日戦争物かと思いました。いくら中国随一のヒットメーカーで、日本でも『女帝[エンペラー]』(06)や『イノセントワールド-天下無賊-』(04)などが公開されているフォン・シャオガン(馮小剛)監督と言えども、対日本の戦争をあつかった作品の日本公開はないだろうと思っていましたが、これは1948年の国民党と共産党の中国内戦を描いた映画です。
第二次世界大戦では日本という共通の敵と戦うことで協力体制にあった国民党と中国共産党、しかし終戦後に対立関係は悪化。一時は蒋介石を最高指導者として統一国家建設に合意しながらも、46年に内戦勃発。この時の兵力は国民党軍430万に対し、共産党軍は120万。しかしながら市民も召集して共産党軍は人民解放軍へと発展して勢力を拡大、その後国民党は台湾島へ逃れた。これが中華民国/台湾の設立につながり、1949年には中華人民共和国が設立。そして私たちは現在、台湾映画、中国映画と分けて呼ぶことにも至ったのですね。


戦争のレクイエム│イメージ
「中国映画の全貌2008」でも上映された、ジャッキー・チェンの両親の遍歴を辿ったドキュメンタリー『失われた龍の系譜~トレース・オブ・ア・ドラゴン~』ではジャッキーの父が国民党員だったために身の危険を感じ、子供を残して香港へ逃げたことが語られていました。
ジャッキーは日本軍に、そして内戦によって翻弄された父母のドラマチックな人生の落とし子だったのです。中国返還前の香港では、旅行ガイドさんが大陸のことを「共産党」と呼んでいるのを聞きましたが、一定の世代以上には共産党と大陸は同義語なのでしょう。時代が変わった今、『戦争のレクイエム』には香港の資本も入っています。


戦争のレクイエム│イメージ
大陸で「賀歳片」(お正月映画)の定番ヒットメーカーとなったフォン監督。昨年の東京国際映画祭の特別招待作品として本作が上映された際に来日した際、コメディしか撮れないという世間の評価を覆したことへの自信をのぞかせていました。中国で絶大な人気を誇り、一般受けするセンスは様々な経験を通して磨かれたのかもしれません。中央戯劇学院や北京電影学院といった名門の受験に失敗した後、軍を含めいくつかの職を経験。テレビの美術スタッフを経て演出家に、そこから監督になったという苦労人です。
「男だったら一度は戦争映画を撮ってみたいものさ」と語った監督。駒やゲーム機ではなく、役者やエキストラを動員して実写の戦争ごっこを展開するのは一部の男の子と元男の子には夢かもしれません。いや、中国映画としては破格の17億円の制作費をかけたのに‘ごっこ’なんて言ってられません。ところがこれでも「ハリウッドの10%程度」だとか。いい加減ハリウッドとの比較はやめた方がいいとは監督も思っているようで、「日本、韓国、中国が一緒に力を合わせて頑張れば、ハリウッドに負けない作品ができるはず」とも。この作品では韓国映画『ブラザーフッド』を手掛けたチームがSFXを担当。監督曰く「戦争で人が死ぬことを観客に信じさせるために、その残酷さを伝えなければならない」から。
戦闘シーンを描かずして戦争への強いメッセージを持つ作品もあります。現在公開中の『チェチェンへ アレクサンドラの旅』は、昭和天皇を描いた『太陽』でも特異な才能を持つアレクサンドル・ソクーロフ監督作品。そして先月号でも触れたフィルメックス最優秀作品賞を受けた『バシールとワルツを』。1982年のイスラエルのレバノン侵攻を真摯に振り返るアニメーションだが、2009年の今、イスラエルのガザ地区への攻撃で犠牲者は500人を越え、多数の子どもを含んでいることこそ人の手による地獄絵だ。


戦争のレクイエム│イメージ
かけたお金の大小に関わらず、戦闘シーンを見慣れてしまったからかもしれませんが、『戦争のレクイエム』で私の記憶に残っているのは何より主人公である隊長、グー・ズーティ(谷子地)の苦悩です。映画の後半、彼は取り憑かれたように自分の部隊の存在証明のみに生きるのです。
兵士として死ぬということは、「烈士」として名誉の死と扱われるか、「失跡」かなどでその後も遺族の米の割り当てが異なるなど無情な扱いが待っている。面子が大事な中国においては一大事でしょう。グーには58年に解放勲章が贈られたましたが、彼には名誉回復以上に罪滅ぼしをして、日々安眠するためにも必要な行為だったのでは。 グーの執念で思い出したのが水木しげるの自伝的小説「総員玉砕せよ!」。香川照之主演でNHKでドラマ化もされた原作のあとがきには、「ぼくは戦記物を書くとわけのわからない怒りがこみ上げてきて仕方がない。多分戦死者の霊がそうさせるのではないかと思う」と書かれている。死なねばならぬ理由がないのに死んでいく仲間。自分が生き残ったことを申し訳なく感じて生きる重荷。その重圧に耐えるために生まれてきた人間なんていないはずだ。グーの行動は、その重荷に対処する術なのだろう。 原題の《集結號》とは戦場で吹く合図のラッパのことです。このラッパが意味するものは重く、そして戦争に駆り出された人たちの耳に撤退の《集結號》は死ぬまで、いや、それは死んでも聞こえない音なのかもしれない。


戦争のレクイエム│イメージ

昨年末から中国・香港で公開中のフォン監督最新作”非誠勿擾”は、フォン作品常連のグォ・ヨウがスー・チーやビビアン・スーと共演したラブコメ。一部北海道で撮影もされましたが、日本で公開の可能性はいかに。


公式サイト:http://requiem-movie.jp/

1月17日(土)よりシャンテシネ他全国順次ロードショー
2007年/中国/北京語/124分/原題:集結號
配給:ブロードメディア・スタジオ



天使の眼、野獣の街│イメージ
『天使の眼、野獣の街』

ヤウ・ナイホイ初監督作品。先月号で紹介した『エグザイル/絆』を楽しんでいただけた方は必見です。93年の『素足のクンフー・ファイター』以降、『ザ・ミッション/非情の掟』、『エレクション』といったジョニー・トー監督作品の脚本執筆に携わってきた<トーの右腕>、<トー組の頭脳>と称されるヤウ・ナイホイ、トーのプロデュースにより満を持しての監督デビューです。
上記に挙げた一連の作品が肌に合わなかった方にもこの作品は是非見ていただきたい。純粋に、新人が仕事に馴染んでいく様を描いた成長物語でもあるからです。適正を見極めるための実地訓練に受かり、晴れて香港警察刑事情報課・監視班の捜査官として初仕事にかかるホー。
原題の《跟蹤》は尾行の意味で、この部署は監視と追跡を行う特殊捜査班。銃撃や突入のようなことは本来別の部隊がやるはずだが、この部署の任務はことの運びによってはかなりの危険が伴うもので、長年の経験と勘を持ってしても容易ではない。容疑者と至近距離で接することもある任務をこなすには、度胸と演技力も要するでしょう。これまた香港警察の知られざる一面を垣間見られる職業ガイドのようにも楽しめます。昨年『インビジブル・ターゲット』を紹介した際に「次の人生では香港警察で働きたい」を撤回したことを翻したくなりました。この部署は面白そうだ!
ヤウ監督も警察オタクに間違いないでしょう。私は警察にトー組の「犬」がいるに違いないと踏んでいますが、この映画のクレジットには香港警察公共関係(PR)課が名を連ねていますが、たしかにこの内容だったら香港警察お墨付きでしょう。
『インファナル・アフェア』で「さり気なくこっちを見ている奴がいたら(私服の)デカだ」なんて台詞がありましたが、こういう目線で見ると香港街歩きがさらに面白くなるかも。

天使の眼、野獣の街│イメージ
役者はトー組『エレクション』の芸達者が集結。アクの強い役柄が多いサイモン・ヤムがいい味を出しています。ナルシスティックな鳴りは潜め、ポコっと出たお腹と曲がったメガネからは優しい目が覗く。普段の役柄とは対照的な理想の上司像です。ボスを演じるマギー・シュウはいつもながらきりっとしていて頼もしい。

主演は本作が映画デビューのケイト・ツィ。華やかさに欠けるという声も聞きますが、そもそも目を引く容貌だったらこの部署で働くには不適切なので、普通っぽい彼女の奮闘振りがリアルで好感が持てます。
そして彼女がヤム上司「犬頭」に付けられるコードネームが「子豚」。ほかにもエビ、チキンなど現場の同僚は全員名前を持っている。容疑者たちに付けられた名前は「ファットマン」(演じているのは他でもないラム・シュ)、そして「ホローマン/影の男」ことチャンは、神経質でキレたら怖そうなレオン・カーファイがはまり役。
昨年末フィルメックスの審査員として来日した際にご本人にお目にかかりましたが、折れそうな細い脚で、太れない性格なのね~と感じました。家庭菜園を楽しんでいるという穏やかなご本人は、この役は今までに演じたことのない役でチャレンジであり、短時間での緊張した撮影ながらも役に入り込むことができて幸せだったとのことでした。優れた役者は皆そのようですが、集中力が極めて高く、切り替えが早いのでしょう。撮影期間が短い香港映画界では必須の素質かもしれません。


天使の眼、野獣の街│イメージ
この作品は07年の東京フィルメックスで審査員特別賞コダックVISIONアワードを受賞、08年の香港電影金像獎ではヤウ監督が最優秀新人監督賞を、ケイト・ツィが最優秀新人賞を受賞しました。彼女はサミー・チェンの復帰作として現在香港でヒット中の”大搜査之女”にも出演しています。

この作品を共同執筆しているのはアウ・キンイー。こちらも『マッド探偵』をトーと共同監督したワイ・カーファイと共に脚本を手がけている。トーの頭脳はひとつにあらず。今後も傑作が期待できます。

英語のタイトルは”Eye in the sky”。それを聞いただけで80年代のある時期盛んに流れていた同名のヒット曲が頭でかかり出す方もいるかもしれません。私はついyoutubeで検索して聴いてしまいました。ヤウ監督は68年生まれなので、少年時代にこの曲を聴いていたかもしれません。Eye in the skyはカジノなどに設置されている防犯カメラの名称でもあり、まさに見張り役です。

緊迫感で気を抜けない、でもさわやかな印象も残す充実した90分をお約束します。
**ジョニー・トー監督の名作『PTU』の続編《機動部隊 - 同袍》が香港で公開されました。ジョニーさんはプロデューサーで、監督はトー作品で役者もこなすロー・ウィンチョン(『私の胸の思い出』、『PTU』では助監督)。キャストはサイモン・ヤム、マギー・シュウ、ラム・シュ。こちらも日本の公開を期待しましょう!


公式サイト:http://www.tornadofilm.jp/lineup/archives/2008/12/post_126.html

1月31日(土)よりシネマライズにてロードショー(全国順次)
2006年/香港/広東語/90分/原題:跟蹤
配給:トルネード・フィルム

香港電影天堂~HongKong Movie Paradise~

藍宇 情熱の嵐│イメージ 『香港電影天堂~HongKong Movie Paradise~』

なんて素敵なネーミングの特集上映でしょうか。『ブラッド・ブラザーズ ―天堂口―』2月7日(土)の公開前に、その出演俳優たちの作品ほか香港明星(スター)の作品を集めたものです。香港映画の勢いがなくなった。。。という声が聞こえてくる昨今、香港映画を盛り上げる企画は嬉しい!新作上映ではありませんが、嬉しいことに日本未公開作も大きなスクリーンで見られるのです。そのうち何本かに触れておきたいと思います。
● ゲイの関係を描いたことに加え、天安門事件を時代背景に据えたことで、スタンリー・クワン監督が中国大陸での活動禁止処分を受けたことでも話題になった『藍宇 情熱の嵐』(01)は『レッドクリフ』のフー・ジュンとリウ・イエ主演。今後スクリーンで見られる機会はそうはないかもしれない美しい愛をもう一度見ておきたい。


ジェイ・チョウを探して│イメージ
● 未公開ながら、そのタイトルからもあまりに有名だった『ジェイ・チョウを探して』(03)が上映されます。昨年の東京国際映画祭ではオムニバス作品『愛の十年』上映時に来日、クールな受け答えが印象的だったオーブリー・ラムの初監督作品。ラム監督は、昨年中華圏で一番賞を受けたであろう<投名状>(『ウォーロード 男たちの誓い』として5月に公開が決定)の脚本チームにも名を連ねています。こちらを見る前に、『冒険王』(96)での若かりし金城武とジュット・リーの競演を見ておくのはいかがでしょうか。


エンドレス・アフェア│イメージ
● フランシス・ン(『エグザイル/絆』)のファンには彼の髪型遍歴も楽しめる『エンドレス・アフェア』(00)は見逃せません。フランシスは『電脳警察 サイバースパイ』(00)にも出演しています。
● リウ・イエの魅力を活かした役どころ、青島の風景、台湾の絵本作家ジミーの絵など、キャロル・ライ監督の繊細なセンスが堪能出来る『恋の風景』(03)
● 『レッドクリフ』では完全無欠な軍師を演じているトニー・レオンのより香港映画っぽさが味わえるのが『ヒーリング・ハート』(00)、『ラブ・イズ・マネー』(01)
『上海グランド』(96)、『恋するブラジャー大作戦』(01)、『ディバージェンス―運命の交差点―』(05)。。。もう一度見ておきたい計15作品が上映されます。
1月31日にはオールナイト上映会<いい男・パラダイス HongKong Gay Movie Night>が開催されます。名作『ブエノスアイレス』(97)などに混じって『僕の恋、彼の秘密』(04)も上映されます。主演のトニー・ヤンは初々しくてかわいいし、ダンカン・チョウもすてきです。80年生まれの女性監督、DJチェンのデビュー作です。
http://www.cinemart.co.jp/theater/roppongi/topics/20090108_2964.html


上海グランド│イメージ
『イザベラ』(06)(2008年12月号の記事からの抜粋です。)
監督はパン・ホーチョン。2004年の東京国際映画祭(TIFF)で初登場にして特集上映をされてから毎年新作が上映されている、知る人ぞ知る監督です。いままでどの作品も劇場公開されていないにも関わらず、TIFFでは毎年いち早く前売券が完売するとか。私は毎年TIFFで監督とのQ& Aの司会を担当してきましたが、監督に彼の有能なパートナー、そして観客の皆様もお馴染みの方が多く、毎年クラス会を開催しているような楽しい時間を過ごさせてもらっています。ルックスはやんちゃな少年のようで、映画は学生映画のノリで作ったようなエッチで何者にも囚われない自由な作風だったりする半面、凝り性で緻密なところを見せたりと、飽きさせない。監督自身、ひとつのジャンルや枠に収まりたくないと、果敢に挑戦を見せてくれますが、香港ではアート系映像作家と位置づけられているようです。
『イザベラ』によって「第2のウォン・カーウァイ」と評され、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門にも出品、音楽賞(ピーター・カム)を受賞。主演はチャップマン・トー、イザベラ・リョン。はまり役のチャップマン・トーと監督は共に不是兄弟(no brothers)公司を設立し、チャップマンは『イザベラ』以降もプロデューサーを務めています。
舞台は『エグザイル/絆』同様マカオ。イザベラ・リョン自身マカオの出身で、この難しい役も、父親と幼くして別れたという実体験があるからこそ痛々しい感覚を演じきれたのかもしれません。マカオ出身は他にもミシェル・リー、『エグザイル/絆』に出演しているジョシー・ホーなどポルトガル系の血が入った顔立ちの女優さんがいますが、イザベラもポルトガルや英国系の混血だそうです。この後イザベラは、今回上映される『ハムナプトラ3』(08)でハリウッド・デビュー。所属事務所とのごたごたなどありましたが、今年弱冠二十歳。国際的な活躍も期待できますが、香港映画にも出続けてくれるでしょうか。もう一人『イザベラ』で注目なのが、イザベラ演じるヤンの級友を演じるデレク・ツァン。俳優以外にも映像作家、脚本家として才能が期待される俊英です。外見は似ていませんが、エリック・ツァンの息子です。名プロデューサーでもある父に続いて香港映画界を支えていって欲しいです。


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松下由美・・・・東南アジアとヨーロッパに長く滞在。
映画祭・映画イベントの司会・英語通訳や映画撮影の製作を担当している。
アート、インディペンデント系、アジア作品を多く担当し、中国語圏作品好きも高じて中国へ短期留学経験あり。
Sintok シンガポール映画祭実行委員。http://www.sintok.org/
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