

『エンプレス 運命の戦い』
ケリー・チャン出演作の公開は『インファナル・アフェアIII 終極無間』(05年)以来、主演作となると公開はジョニー・トー監督の『ブレイキング・ニュース』(04年)と久しぶりな感じがします。
クールで印象的な目、スラリと伸びた肢体、『世界の涯てに』(96年)のケリーの可憐な印象と、その後テレビで見たショッピング大好き!なギャルっぽい素顔のギャップに苦しみましたが、そんなケリーも今ではNPOで社会貢献活動にも取り組んでいます。そして一途な愛を成就して、昨年10月に16年来の交際相手の実業家と結婚。36歳のケリー、今年の8月に出産予定ですが、香港では「ほぼ男児に間違いない」という大きなお世話噂で盛り上がっているようです。本作で共演したドニー・イェンからは、男の子がだったらカンフーを教えてあげると言われたそうです。これはラッキー!その子に生まれ変わればドニー先生にしごかれたケリー似カンフー・スターになるという私のふたつの来世の夢が同時に叶う(かもしれない)!う〜ん、死なずして生まれ変わることはできぬものか。。。。

そんなバカバカしくも乙女な気分に浸れるのは、本作がとてもロマンチックだからです。最近の中華圏映画は戦国ものが続いた感があり、本作も冒頭では「またか」と思ってしまったのですが、まずは衣装に目を惹かれました。時代考証にはこだわっていなさそうなセンスの、どこかインドシナ風でもある甲冑。お団子頭もかわいい。衣装を担当したドラ・ンは、近年では『ウィンター・ソング』(06)や『ミラクル7号』(08)を手掛けています。時代劇は初めてのようですが、刺客の衣装も忍者風でかっこいい。
主演の三人が結構年を取っているって?いいのです、広い世代が親近感を持てるじゃあないですか。『花の生涯 ~梅蘭芳~』では、あそこまで控えめな主役を演じられるのも才能だとか、どう解釈していいものか困るコメントもされているレオン・ライですが、本作では段蘭泉というまさに(一部の女性から見て)理想の男性を演じています。一人で森の奥で生きる術を持っている、モデルはターザンでしょうか。そしてケリー演じる燕国の王女、燕飛児が蘭泉と「飛ぶ」シーンは、二人のデュエット「随夢而飛(Fly with the dream)」とあいまって盛り上がり、『タイタニック』のあの有名なシーンよりずっとうっとりしてしまいます。ところがある男性のコメントでは、この一連の場面がイラつくとか。ケリーが十代の小娘のようだし、だれるから早くアクションに戻れと。それはね、男に囲まれて、城と戦場しか知らずに育った飛児が初めて女に目覚めたのよ!分かってないなぁ。。。つまり、この作品は男性と女性の(一概に区別出来ませんが)共感どころをよく把握しているんですね。

アクションを担うのはもちろんドニー。出身は広東省ですが、11歳から移住したアメリカでグレはじめ、このままでは地元ギャングに染まることを恐れた武術家の母親が彼を北京に送り、体育大学でみっちり武術を仕込まれたとのこと。私が上海へ短期留学をした際に通った武術クラスにある日本人がいました。彼は日本で就職をしたものの、武術への思いを立ちきれず、北京体育大学で学んだそうです。当時は上海で貿易の仕事をし、上海女性とも結婚をした彼ですが、武術も北京語もピカ一の彼を私はドニー泉と呼んでいました。体育大学での2年間は密度の濃いものだったそうで、言語と武術を一度に学びたいあなた!これは要考慮の留学選択だと思います。

さてドニー演じる将軍雪虎、孤児である引け目からか、その秘めたる愛を直接表現することはなく、恋敵の腕試しや犠牲という形でしか伝えられないのです。これをMr.ナルシスト、ドニーが己の美学を昇華しきるかのように、髪を振り乱して壮絶に演じ上げる後半は彼の独壇場。ここまでやってくれるとあっぱれです。『SPL/狼よ静かに死ね』(05年)の刑事とは思えないファッションや、いつまでも張りのあるお肌とかアクション以外の面でも楽しませてくれるドニーですが、<書皮>に<葉門>といった最新作もヒットし、授賞もしています。武術家/俳優になるきっかけがブルース・リーだというドニー、<葉門>は広東省を中心に伝承されてきた永春拳の、そしてブルース・リーの師匠である葉門を描いた作品ということで、是非公開を期待したいところです。
王位を狙う王の甥、胡覇を演じているのは『天安門、恋人たち』(2008年7月号で掲載)が印象深いグオ・シャオドン、初の悪役ではないでしょうか。憧れの家庭教師の大学生のような雰囲気がまだ邪魔をしていますが、最近はツイ・ハークなど香港監督の作品にも出演、活躍の場を広げています。来月紹介する『ウォーロード 男たちの誓い』にも特別出演、ここでは悲劇の男の哀愁を演じています。
監督は『少林サッカー』、『HERO』、『LOVERS』に日本の『どろろ』の武術(アクション)監督でも知られるチン・シウトン(程小東)。チャン・イーモウと共に北京オリンピック開会式でのワイヤー・アクションも手掛けました。最新武術監督作は『ウォーロード 男たちの誓い』。
ケリーは世界経済フォーラムの2009年「ヤング・グローバル・リーダーズ(若き世界指導者)」世界71カ国の230人の一人に選出されました。香港から選ばれた4人のうち、ケリー以外はビジネス界からですが、彼女の社会責任を果たす行動が評価されたのでしょう(日本から選ばれたのは橋下大阪府知事、ミスターチルドレンの桜井和寿、経済評論家の勝間和代ほか7名、ほかにはタイガー・ウッズ、Youtube創設者の一人チャド・ハーレー等)。ケリーは2002年に「陳慧琳児童助学基金」を設立、大陸の農村部に28の小学校を建設、香港でも貧困家庭の子供に教育の機会を提供しています。ケリー自身、親日家の父親の勧めで高校は神戸のカナディアン・アカデミーで学び、大学はNYに留学しており、教育や語学の大切さを実感しているのでしょう。セレブリティーの社会貢献責任の自覚があるからこそケリーは外見/内面ともにロールモデル(手本となる人物)なのではないでしょうか。教育の機会を子供に与えるためには少額の募金からでも始められる、そんなことをケリーは私たちに気付かせてくれます。
劇場先着プレゼント/トーク情報:
http://www.cinemart.co.jp/theater/roppongi/topics/index.html
陳慧琳兒童助學基金/Kelly Chen Children Education Fund:
http://kellychen.stareastnet.com/tc/main/child/fund.html
2008年/中国、香港/北京語/95分/原題:江山美人
4月4日(土)よりシネマート六本木他全国順次公開
配給:ツイン

『レッドクリフPartII ─未来への最終決戦─』
PartIを見てからしばらく経っているという方にも冒頭復習を用意している、ビューアー・フレンドリーなPartIIです。とは言え私もPartIを見た際には登場人物の名前表記もなく、あれよあれよと展開した感がありましたが、先だってPartIを見直したらぐいぐい引き込まれました。
そして、PartIIの冒頭には復習に加えてジョン・ウー監督のメッセージがあります。PartI公開以降に世界を揺るがした金融危機、それに続く不況。でも負けないで欲しい、私の答えはここにある。。。ということかもしれません。確かに自分の夢に自費10億を投じるあなたは勇気をくれる。そしてその映画を成功させてしまうのだからすごい。その度胸を見習ってその100分、いや1万分の1くらい投じて賭けに出るか?!何かあったらジョン・ウーの責任にするしかない。

涼しい顔をして飄々と孔明を演じる金城君がかなり板についてきて、何だか仙人のようだ。いい人になり過ぎても面白くないんじゃないか。アブナい役も演じて欲しいし、大物との大作だけでない小品にも出て欲しい。でも彼のルックスが、どんどん浮世離れしていく気がするのは私だけでしょうか。
そして周瑜と孔明の知恵比べには舌を巻きます。集中力さえあれば、小石でも巨人を倒せるといった台詞は旧約聖書のゴリアテとダビデの話を思い起こさせますが、それにしても5万で80万:1対16で敵を倒すとは孔明、あっぱれである。もちろん散った命は単なる数字ではない。語り継がれるドラマが成り立つには何人の名も無き農民出身の兵士の犠牲があったのだろうか。
中村獅童はPartIに比べるとインパクトが少ない気もしますが、風貌は個性豊かな中華圏俳優たちにも引けを取りません。中村は特に関心を持って見ている役者ではなかったのですが、ジェット・リーと共演した『SPIRIT』では武道家振りが様になっていました。その後、私生活のごたごたでイメージダウン。。。と思いきや、偶然見た『同窓会』での特別出演で見せた怪演が、短いながら彼の芸達者振りが発揮されたものでした。現在テレビで流れているCMの「細マッチョ」振りも、気恥ずかしさが見える松田翔太と比べてもキャラをよく理解したポージングが目を引きます。個性派ゆえ主役を張るより、ちらっと出てインパクトを残すのに向いているのでしょうか。
しかし香港と大陸の人たちばかりの撮影現場は彼を成長させる場となったのでしょう。周瑜に仕える勇敢な武人という設定の甘興、実は『レッドクリフ』オリジナル・キャラクター。エイベックスの世界進出を担う日本人役者のために作られた役かと思ったら、もとは甘寧興覇というモデルとなる人物がいましたが、中村を気に入った監督が、PartIIでは史実と異なる展開にしたため、名前を甘興に変えたそうです。
面構えを言うなら張飛、関羽、魯粛といった脇を固める役者も大陸俳優の層の厚さを感じさせます。関羽役のバーサンジャブは『モンゴル』にも出演、チンギス・ハーンの末裔で、テレビドラマではチンギス・ハーン役を演じているとのこと。

PartIIでは女性も主役という扱いになっていますが、現代風に言えば平和調停人役を果たそうとした小喬。make peace, not war「戦争を起こすのではなく、平和を作ろう」転じてmake love, not war「戦争を起こすのではなく、愛を交わそう」と言ったりしますが、彼女はさしずめmake tea, not war。一杯の茶は気分転換や癒しをもたらす。だが命取りとなることもある。妻も策士である。
小喬を演じたリン・チーリン、大陸では甘ったるい「赤ちゃん声」に反発が集まり吹き替えとなったそうですが、実は「小喬をより完璧なものにしたかった」リンも自らそれを監督に願い出ていたとのこと。リンはすでに次回作の撮影に入っています。時空を超えたラブストーリー<刺陵>の共演相手はジェイ・チョウ、今年末に世界同時上映で公開予定だそうです。

思い起こせばトニー・レオンの孔明役辞退後にチョウ・ユンファの周瑜役降板がありました。元々のキャスティングで作られていたら違う雰囲気の作品になったに違いありませんが、監督も理想通りの「三国志」の人物像が出来上がったと満足そうです。監督自身の「三国志」のお気に入りの人物は周瑜と趙雲だそうで、趙雲には自分に近いところを感じるそうです。なるほど、だからPartIでは趙雲が主役なんですね〜 勝手に私はそう思っていますが、PartIIでも出番は少ないながら決めてくれます。フー・ジュンの株も上がり、これから趙雲を演じる役者はやりづらくなるのではないでしょうか。

最後に、ではPartIIの主役はだれなのか。私にとってはヴィッキー・チャオとトン・ダーウェイです。PartIでは資料に名前があるのに登場しなかったトンですが、隣のお兄ちゃんのような親しみやすさが役にぴったりです。しかしながら名を残すこともない兵士、孫淑材も『レッドクリフ』オリジナル・キャラクター。二人の一連のシーンを不要だと切り捨てた海外の批評も読みましたが、尚香の人物像がはっきりと描かれ、ヴィッキーが消化しているのがよく分かります。あまりに優れた武将振りですが、孔明曰く「北に曹操、南に孫権、更に内にあっては孫夫人の脅威があり…」だそうで、尚香とその侍女たちは武装しており、新婚初夜にそれを見た劉備が逃げ出したとか。周瑜が仕込んだ政略結婚で、30も年上の劉備に嫁いだとされる尚香。夫婦仲はよく、劉備が戦死したという誤報に絶望して長江へ身を投げたと伝えられているそうですが、PartIでは政略結婚で道具に使われることに反発した尚香。ウー監督、こういった現代的な解釈も心得ています。尚香がこの先どう生きるのか。監督、PartIIIは尚香主役で撮ってはいかがでしょうか。
2009年/アメリカ・中国・日本・台湾・韓国/北京語/144分
4月10日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国超拡大ロードショー
配給:東宝東和/エイベックス・エンタテインメント
(C)2009, Three Kingdoms, Limited. All rights reserved.

『四川のうた』
「彼の作品は、本当の中国を描いていない」とは北京人の友人の弁。この映画監督の友人曰く、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督は、「海外の映画祭を念頭に置いたような中国を撮っている。例えば『長江哀歌』で労働者が麺を食べるシーン。彼らは何度もの取り直しでげんなりして麺を食べているけど、本当ならかき込んで食べるはずだ」。面白い指摘かもしれない。私はそこには全く目がいかなかったからだ。
北京に映画の勉強で留学している友人は、映画史の先生によると、張宏森 電影局副局長が『長江哀歌』を批評して言うには、「ジャ・ジャンクーの映画は、単調で客観的過ぎて冷たく感じる。興業がうまくいかないのは、温かみがないせいだ」と。張氏はジャ監督を評価しており、このコメントは例えば中国で随一の人気を誇るフォン・シャオガン監督の映画と比べてみると、大多数の中国人の求めるものがわかるという意味らしい。本サイト1月号ではフォン監督の日本初公開作となった『戦場のレクイエム』を紹介しましたが、彼は本国ではコメディ作品を必ずヒットさせていることで有名。大衆受け監督とアート路線監督という単純な比較はほかの国の映画でもできますが、ジャ監督は本国より海外のシネフィル(映画好き)により名前が知られているのではないでしょうか。

日本で彼の作品が必ず上映や公開がされているのは北野武監督の所属事務所、オフィス北野が出資していることも大きいと思いますが、やはりどこかヴェネチアやカンヌといった映画祭で評判のいい監督といったヨーロッパ経由の評判が大きいように思います。
1970年生まれのジャ監督は、常に地方や地方出身者を描いてきました。自身も山西省の小さな田舎町、汾陽(フェンヤン)に生まれ、山西省の省都、太原の芸大で油絵を専攻しましたが、チェン・カイコー監督の『黄色い大地』(84年)をきっかけに93年に北京電影学院に入学。
先の「冷たい」印象というのは、確かにやたら面倒見がよく、うるさいくらい声の大きい中国人を見慣れているとどこか人物を突き放して撮っているように見えますが、何度かジャ監督と一緒に仕事をした中国語通訳の方によると、熱くて気骨のある方のようです。「冷たい」印象は、独自のテンポから来ているものか、まるでドキュメンタリーのようでありながら演出が過剰にも思えるようなスタイル化された絵からか。実は私も何とも解釈できない部分がありました。

そして新作『四川のうた』、いつもの叙情的な映像はさらに美しく、でも熱を帯びているのです。以前は軍事工場であるがゆえに「420工場」と番号で呼ばれた一見無機質な工場が、長年人が住んでいた家のような温かみを持っている。工場フェチな映像作家は多いし、工場というのは絵になるロケーションですが、ジャ監督自身も長年工場の映画を撮りたいと思っていたようです。
労働者が主役の映画を撮るということに関しては、「自分が普段に映画を見る中で、だんだん実生活から離れたようなものばかりになっているという気がするので、立ち返って身近な人たちを撮る作品があってもいいかな」と思い、実際の工員たちを、ポートレートを撮るかのようにカメラに目線を向けさせています。そのわざとらしい行為によって、工員たちの所在なさが伝わり、かえって生々しく感じる。ひとつひとつのエピソード、ドラマの紡ぎ方も別の監督だったら例えば群像劇の再現ドラマにすることも出来たかもしれません。この軍事工場と言う国民を守り支えるための場所で働くため、多くの犠牲が払われたことが淡々と、でも心に訴える語り口なのです。この工場が青春を、人生を生きる舞台となった人たちの物語は、工員の数だけあり、一人一人が今の中国を作りあげた役者とも言えます。

映画には、山口百恵が中国でも大人気だったという懐かしい話を思い出させる逸話も。日本のテレビドラマ「赤いシリーズ」が、中国の個人恋愛の価値観に多いに影響を与えたというのは興味深い。「中国で80年代を生きてきた人にとっては、山口百恵さんは共通言語です」と語る監督。日本では70年代に放送された山口百恵主演の「赤いシリーズ」は若者の恋愛を描きながらも家族のドラマであり、時にそれがドロドロだったりしても良心や品性のあるところが中国には新鮮で、そして受け入れられた理由かも知れません。
もともとはドキュメンタリーになる予定だった本作に関して、監督は「三国志」と「三国志演義」を例に挙げて話しています。「「三国志」は歴史の記録でこういうことが起こった、ということが記載されているが、「三国志演義」と言うのはそれが小説化されているものです。だから歴史と言うのは1つには記録で1つには想像力で補われたもの、それによってかつての物事を残していくものなのだと思います。この作品を撮ると決めた時に、名の知れた役者を起用しました。それによってこの話は明らかにフィクションの部分、ドキュメンタリーの部分ということが最初から分かるように観てもらおうと思ったからです」。

実際の工員と、俳優が混じって自分や「誰か」を演じ、一本の映画になっているというのは実にスリリングかつ、監督にも俳優にとっても大いなる挑戦だったことでしょう。
58年、四川に420工場が出来たために移住をしたダーリーのエピソードには心が揺さぶられました。『青い凧』や『上海家族』でも「お母さん」の印象が強いリュイ・リーピンが、老けて疲れたダーリーという役柄をそれは自然に体現しています。監督は実際にこの工場の言わば初めての犠牲者という経験をした方に出演をお願いしましたが、断られたそうです。

それとは対照的に華のある中年女性の風格を漂わせているのがジョアン・チェン。華の盛りを過ぎても粗大ゴミ扱いはイヤという女性を演じている。彼女のプライドが彼女を不幸にしているのか、または彼女を支えているのか、力強く生きさせている。他人を演じながら、設定がジョアン・チェン似という彼女以外演じられない役を、ほとんどワンテイクだけで撮ったとのこと。「彼女がデビューした18歳の時の映像を流して、50歳くらいの今の彼女と同時にその映像を流そうという提案におおらかに応えてくれた。非常に勇気のいることだなと思いました」という監督。確かに女優としては時の流れをさらすことになりますが、それだからこそ血と肉が通った安堵感と美しさが醸し出されているのではないでしょうか。

そしてジャ監督のミューズ、チャオ・タオは工員の子供世代として、いかにも現代っ子という感じで登場しますが、「労働者の次世代」たちには出演のオファーをしたものの、ことごとく断られてしまったとのこと。この次世代たちが工場と言う大きな家、守られた空間のない中でどう生きていくのか。親との価値観にはどういった相違があるのか。次回はそれを追った作品も見たいと思います。
この作品にはそもそもドキュメンタリーとは何だ、リアルってどういうことだと考えさせられます。友人で中国で取材をする海外メディアのリサーチや撮影のプロダクションをしている人によると、役人がお目付役で同行するのが常らしく、番組の出来や運は役人の人柄に負うところが大きいというようなことも言っています。そんな中で、ジャ監督の作品にはきっとどこか中国のリアルな断片が焼き付けられているのではないでしょうか。
ジャ監督の次回作、<双雄会>の主演にはマギー・チャンを迎えることが決まっているようです。ジャ監督初の香港の俳優起用ではないでしょうか。何より長らくスクリーンから遠ざかっているマギー・チャンが映画界に戻ってくるのは嬉しい限りです。
2008年/中国・日本/北京語/112分/原題:二十四城記
4月18日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
配給:ビターズ・エンド/オフィス北野

『カンフーシェフ』
ついに料理の世界にもカンフー旋風が! 『少林サッカー』(01)、昨年8月号で紹介した『カンフーダンク』、それに年齢的にジョーダン・チャン(67年生)主演というのはきついのではないかという声が聞かれた《カンフーヒップホップ》(日本未公開)というのもありました。
もともと料理が題材の映画はアジアに多いですし、日本のTV番組「料理の鉄人」が海外でも放送されたあたりから料理の格闘技化が進んだのではないでしょうか。「TVチャンピオン」も忘れてはなりません。こちらは作るより食べる対決の方が有名になりましたが、そのうち「カンフード・ファイター」なんて映画が出来るかもしれません。
そして『カンフーシェフ』、主役はサモ・ハンとヴァネス・ウー。2月号で紹介した『三国志』や『ドラゴンスクワッド』(05)でも共演している二人ですが、本作ではがっちりと師弟関係のタッグを組んでいます。
いかにも香港的!といった映画が作られるのは嬉しいけれど、主演の男性スターは台湾人(系)というのが香港の人材不足を表しているかもしれません。スター性、アクション能力、そして香港ではお約束の歌唱力を備えた人となるとこれは難しいのかもしれません。若手とは言え30歳になったヴァネスですが、やんちゃな感じの演技もなかなかいけます。
肉体美披露ももちろん忘れていません。武術学校まがいの料理学校卒業試験のコミカルな演技など、ヴァネス=F4と思っている人には新鮮な驚きでしょう。昨年のF4来日コンサートに何の予備知識もなしに行った私ですが、ヴァネスの踊りの上手さと観客に積極的にアピールするエンターテナー振りは印象的でした。
日本語で歌うシングルも発売され、5月にはイベントが行われるとのこと。文末の映画公式サイトからヴァネスの日本公式サイトへ飛べます。

サモ・ハンの長男、ティミー・ハン・ティン・ミンが、根は優しいのに風見鶏な行動を取ってしまうレストラン経営者の鞄持ちを演じています。テレビ司会者として知られる彼は、風貌もキャラも父親とは似ていません。アクション映画にも出ているということですが、あまりにも偉大なアクション・スターの父親を持つということではジャッキー・チェンの息子、ジェイシー同様アクションの道には行かない方が賢明なのかもしれません。
本作の主役はやはりおいしそうな中華料理の数々かも。四種類の鳥を使った料理「四套宝」はいかにも中華な発想の一皿。様々な鶏系の味を一度に楽しみたい欲張りな向きにはいいのかもしれません。とにかく「開水白菜」という一品がおいしく描かれていて、
映画を見ると食べたくなること請け合いです。
肉体派シェフ、ヴァネスとシェフ対決をするのはおデブ振りがグルメなシェフにうってつけのラム・ジーチョン。チャウ・シンチーの事務所に属し、『少林サッカー』でデビュー以来シンチー作品でお馴染みですが、自身で脚本や監督も手掛けるマルチな才能です。
料理が奇想天外なら、映画の展開も飛んでいます。突っ込みどころも満載。いかにも香港らしさを継承していて、上映時間がきっちり90分というのも満腹度◎。日本で上映されるのは広東語ではなく北京語版だというのがちょっと残念ではあります。シェフがスーパー・マーケットで具材を揃えるのかい?という疑問を抱かせたりしますが、スーパーが舞台のカンフー・アクションのためと素直に受け入れることにしましょう。何でも日本から参加の加護亜依の最初の出演シーンがこのスーパーでのアクション・シーンだったとか。最初からそれは大変な思いをしたものです。ただでさえシーンを繋ぐまで、俳優たちには映画の構成がよく分からないと言われる香港。吹き替えを前提に、自分には分からない言葉を共演者たちが話す呼吸に合わせる撮影というのは容易ではなかったでしょう。スタントなしでアクションに取り組んだのもすごいですが、サモ・ハンから武術指導を受けたとは何とも貴重な経験をしたものです。この加護ちゃん演じるイン、不器用なのか、すごいひらめきを持った感性の才人なのか不明ですが、香港映画っぽいキャラでかわいいです。インの姉でレストランを守るしっかり者のチンを演じるのは台湾出身、アンディ・ラウとの競演も多いチェリー・イン。

見所はやはりサモ・ハンの料理とカンフーのみごとな融合ですが、兄役のブルース・リャンとの対決も楽しめます。若干16歳にして武術指導者になり、香港の空手大会で優勝。74年の主演作『必殺ドラゴン 鉄の爪』でデビュー後は数多くの映画に出演。ブルース・リーやジャッキー・チェンとならび「三龍/スリー・リトル・ドラゴンズ」と呼ばれた存在です。その後映画界を離れていましたが、2000年以降大陸のドラマで復活。48年生まれの60代ながらも『カンフーハッスル』(04)や、昨年5月号で紹介した『軍鶏』(06)に続き、今年60歳のサモ・ハンとともに衰えを見せない現役のアクションを披露しています。
『エンプレス 運命の戦い』でも触れたドニー・イェン主演のヒット作、《葉問》(日本未公開)の武術指導を手掛けたサモ・ハンですが、続編も武術指導担当および今回は出演もする可能性ありとのこと。この続編にはアンディ・ラウも武術家で登場という話もあり、実現したらサモ・ハンのアクションを堪能出来る作品になりそうです!
2008年/香港/北京語/90分/原題:功夫厨神
4月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー
配給:日本スカイウェイ
(C)2008 My Way Film Co.,Ltd/Nihon Sky Way